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寝ても醒めても勉強、勉強で、日々だけが過ぎていく。
家族で囲み合う食卓の中でも、出てくる話題は勉強の話し。
「誠吾、もうすぐだな。しっかりやれているか?」
「大丈夫よ。貴方の子ですもの。春にはばっちり、東欧の合格通知がくるはずよ。ね、誠吾」
さっきまで美味しかったはずのハンバーグが、急に味気なくなり、肯定とも否定ともとれない返事を2人に向けた。
「…ご馳走様。塾の課題してくる」
皿を重ねてから台所のシンクに置くと、そのまま2階に上がった。
学習机とベッド、参考書や小難しい小説、辞典が入った本棚がある小学生とは思えない殺風景な部屋を見渡し、何度目かのため息を付いた。
(受験なんてしたくない)
そう声を大にして言えたらどんなにラクだろうか。
開いたままの課題を解きながら、思った。
ー コンコン ー
軽やかなノック音が鳴ると同時に、部屋主の返答も聞かず扉が開いた。
「入るぞー」
「もう入ってるよ」
茶色とネイビーが混ざったチェックのスラックスに、オフホワイトのワイシャツを纏った姿の兄が、ドカっと音を立ててベッドに座った。
「おかえり。制服、皺になるよ」
「あー、いい。いい。ただいま」
いつも学校から帰ると、すぐに着替えにいく兄に疑問を抱きながらも、目の前の課題に集中した。
「なぁ、誠吾。お前、ほんとうは東欧なんか受けたくないんじゃないか?」
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