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大学で次の授業のために学内を移動していた私は、蒼汰が男子学生たちと楽しそうに喋っているのを見かけた。
どちらかというと不真面目なグループに属している男子たちと一緒にいた。大学に来なかったり、来ても授業には出ず芝生の上に寝っ転がったり、ベンチや喫煙所で女子学生らと雑談したりしていることが多い彼ら。
立ち話している蒼汰の足元にボールが転がる。
気づいた蒼汰が片手で拾い、まるでバスケットでもするみたいに「よっ」と持ち主に向かって軽々投げつけた。
「もう平気なの? 死にかけたって話聞いたけど」
パスを受け取りながら友人がさらりと言う。
蒼汰はわざとらしく腕をぐるぐる振り回しながら「楽勝」と笑っている。私はその軽薄そうな仕草や表情を眺めながら、
「別のひとみたい。前はあんなにだらしない顔してなかったのに」
と不満をつのらせた。私を忘れたという蒼汰の言動を細かくチェックしてはケチをつけてしまうのだ。
すぐそばを歩いていた女子学生たちも彼が気になるらしく、ありもしない噂話で盛り上がっていた。
「蒼汰、バイクに乗ってて事故ったんでしょ」
「違うって。振られた女が腹いせにバイクで轢こうとしたらしい」
「何それ、犯罪じゃん」
ぎゃはは、という破裂音のような笑い声が耳の近くで響いた。
「えー、でも彼女いたんだ?」誰かが残念そうな声を出すと、「振っただけでしょ。コクられて」とすぐに誰かが否定した。
「蒼汰なら納得。ぼーっとしてるけど彼女とかいっぱいいそう。あれは相当、遊んでるよ」
彼を目で追いながらヒソヒソと囁きあっている。
「おれにかして」いつの間にか蒼汰がボール遊びに混じって走り回っていた。
「見てよ、あの顔。少年みたいじゃん!?」女の子たちが感嘆の声をあげているすぐ隣で、私は蒼汰のまくりあげられたシャツの袖からのぞく腕に目を凝らしていた。
カメラを構えるときと似ている。私は彼がボールを投げるときのすっと静かに動くあの腕が好きだった。無意識ではないかと思うほど自然で、それでいて美しい動作なのだ。
「残酷だな」
楽しそう声をあげる学生たちと、その中心にいる蒼汰の快活そうな笑顔を私は何ともいえない気持ちで眺めていた。あの腕。からだは同じなのに、知らないひとみたいに振る舞うなんて。残酷だ。
事故が起こる少し前の夜のことだった。
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