【11】背中押してあげる

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「自分の作品も撮り続けてたみたいだよ。ほら、背中や肩を痛がっていたことがあっただろう? そのときはカメラや機材を持ち歩くのがつらかったから、大学の課題をこなすことで精一杯だったらしい。それで普段は使わないスマホやミラーレスの軽量タイプのデジカメを使って撮影することに興味を持ったって。夜に出歩いていたのも結愛ちゃんに内緒で撮影の練習をしたかったからじゃないかな。中学時代にバスケ部で一緒だった友達がサークルをやっているとかで、その子たちがボールを追う姿や、練習場近くの街並みとかを何枚も撮っていたみたいだよ」  涼介さんの話を聞いて私は胸をつかれる思いがした。 「私、蒼汰のことを傷つけてたんだなって改めてわかった。だって気弱なところを私には一切見せてくれなかったから。今の話も、初めて聞くことが多くて……。言ってくれたら、私だって機材の持ち運びぐらいなら手伝えたのに」  口うるさく注意することしかできなかったのだ。 「僕も聞いたんだけどね。なんで結愛ちゃんに正直に言わないのって。すごく心配してたのにって」  いつも責めてばかりいた。今さら後悔しても遅い。 「そしたらさ、『かっこ悪いから』って即答されたよ」  えっ、と見返すと、涼介さんは苦笑していた。 「あいつ、飄々としてるように見えて、実は見栄っ張りなところがあるんだよ。好きな子に弱ってるところを見せられなくて、必死に意地を張ってたんだと思うな」 「そんなことで……」  私は目をこすった。止まっていた涙がまた潤んできたのがわかった。  涼介さんが帰ったあとも、布団にくるまってずっと蒼汰のことを考えていた。知らなかった彼の姿を覗いてしまった気がして、まだ動揺している。  涼介さんは帰り際、はやく伝えるんだよ、と言った。 「大学が冬休みに入るだろう? すれ違うといけないから、なるべく早く蒼汰と会って話してほしい」と念を押された。 「君の素直な気持ちを伝えてやって。混乱してるなら、してるってことを素直に」  熱心に言われ、私はうなずいてしまったのだ。  涼介さんによると、蒼汰はあした教務課に用事があって昼ごろ大学に行く予定らしい。私は授業がなく本来なら休みだったが、蒼汰を待ち伏せするためだけに行くことにした。  勇気を出して話しかけてみよう、やるぞ、と意気込んでみる。すると、弱虫の自分がすかさず、「でもな……」とブレーキを踏もうとするので、わずらわしかった。  蒼汰を振り向かせようなんて今さらな気がするのだ。向こうの気持ちだって、とっくに変わっているかもしれないし……。    あれこれ考えていると落ち込んでしまいそうになる。そんなとき、「ぶつかってみなよ」と涼介さんの励ます声が聞こえた気がした。
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