【12】雪

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【12】雪

 教務課がある学生会館の入り口付近で私は蒼汰を待っていた。昼ごろに来ると聞いていたのに、午後をすぎてもなかなか現れなかった。椅子に座りながらうとうとしかけたとき、女子の一人が「雪だー!」と叫ぶ声で目が覚めた。  顔を上げると、学生たちが廊下の窓ガラスに手をついて目を輝かせていた。 「わぁ、ホワイトクリスマスじゃん」  みんな明るい表情のまま、今夜の予定や、冬休みにどこへ出かけるかの話で盛り上がっている。つられて窓の外を眺めているうちに私も妙にそわそわしてしまい、椅子から腰を上げた。  近くを歩きながら辺りを見まわすが、蒼汰の姿は見えない。もしかしたらもう上にいるのかもと階段をのぼり、就職支援課の前に並んでいたパンフレットに目が止まったので、手にとってぱらぱらめくった。  食品メーカーで働いているというOGが、満面の笑みで仕事のやりがいについて語っている。いいなあと思いながら記事を眺めていると、 「何ため息ついてんの。今から就活の心配か?」  と後ろから声をかけられたので慌てた。すぐに振り向くと、やっぱり蒼汰だった。にんまりと笑っている。 「そんな驚かなくても。元気か?」  明るく聞いてくれた。まるで普通の友達同士にでも言うような、軽くて親しげな雰囲気だった。  私の返事を待たずに、じゃあな、頑張れよ、と蒼汰は階段を降りて行ってしまう。 「待って、あのね……」  声をかけようとして、気後れしてしまった。やっぱり蒼汰は私のことなんてとっくに忘れているんだと諦めかけて、でも……、と思い直す。少し遅れて彼の背中を追った。 「蒼汰、待って」  そう呼びかけようとした瞬間、下階から突然アイリの声が響いた。 「蒼汰、大学辞めるって本当なのう?」  悲鳴に近い声だった。蒼汰が大学を辞める? 「どういうことなの?」  私は驚いて階段を駆け降りた。
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