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確かに蒼汰は退学届を手にしていた。
タイチもいたらしく、「急にどしたんー? 何かあったん?」と心配そうに問いかけている。
蒼汰は背後にいた私を振り返りながら軽くうなずくと、
「おれ、おやじに弟子入りすることに決めたんだ」
とさっぱりした表情で言った。今度はアイリやタイチに向かって説明している。
「おれのおやじ、海外で色んな国の建築物とか遺跡とか撮ってるんだ。その手伝いをしながら技術を盗ませてもらうことにした。だから辞める」
アイリはきょとんとした顔をしていた。タイチは腕を組みながら、首をひねっている。
「海外……。つまり大学中退してプロのカメラマンを目指すってこと? それってもったいなくないの。今大学でそういう勉強してるんだし、卒業後に目指せばいいっていうか……」
「うん、もったいないと思わなくもないけど。基本は教えてもらえたから、あとは実践で学ぶことにした。学歴や資格がいる世界でもないしな。もう決めたんだ」
蒼汰がきっぱり言うと、納得したのかタイチは「そういうことかあ」と大仰な様子でうなずいている。蒼汰は話を続けた。
「おれさ、少し前に身長測ったら180に届いてたんだ。何だ、まだ成長できるのかって驚いたし感心したよ。自分の幼稚さにいいかげんうんざりすることがあって、泣かせてしまったひともいて。じゃあ、どうしたら解決すんの? って考えたらさ。やっぱり成長しなきゃなって。背だけじゃなくてさ。遊んでばっかりじゃいられないと思って」
蒼汰は私を見つめていた。
「おれは元気でいるから。もう心配しないで」
最後にそう付け加えて彼は笑っていたのだ。
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