【13】おかえり

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【13】おかえり

 教室の窓枠に肘をつきながら、すっかり散ってしまった桜の木をぼんやりながめていた。  私は無事に三年生になった。一年のときにさぼっていたぶん、取らなければならない単位はまだ残っていたが、二年のときよりだいぶ時間の余裕もできた。  蒼汰からは月に二、三回だけエアメールが届く。こちらからも送りたいけど、居場所がころころ変わってしまうから送れない。忙しいのか、通信状況が良くない地域にいるのか、メッセージを送っても異様に返信が遅かったり、返って来ないこともよくあった。  この前、郵便で送られてきた写真には日焼けして逞しくなった蒼汰の姿が写っていた。髪は肩につきそうなほど伸びていて、現地のひとたちと楽しそうに笑っていたのだ。  封筒には殴り書きでひとこと、「写真、おもしれえ」。まるで少年みたいだと私は吹き出してしまった。最近はもう寂しくて泣いたりはしなかった。  アイリとは、たまに雑談する仲になっていた。  キャンパスを歩いていると彼女のほうから声をかけてきて、なかば強引に中庭のベンチに座らされたのだ。他には誰もいなかった。 「吉崎、あんたさあ。誰にもバレてないと思ってたでしょ? みんな気づいてたし!」  きんきんした声で突然、蒼汰とのことを責められた。 「あいつ、教養科目で一緒になったときも、ランチのときも、あんたの方ばっかちらちら見てたもんねえ。何かあるって思ったわ。まさか、あんたの方も……、とは思わなかったけど。二人で駅前を歩いてるの見たって子もいたしね。ありえない組み合わせだから絶対見間違いだって噂されてたけど、あれ、やっぱりあんたらだったんだね」  ぶすっとした顔をしていたが、それほど敵意は感じなかった。  アイリは冬休み中に蒼汰のことをふっ切ったらしく、年が明けて早々に「他大学にいい男がいた!」と学食で大騒ぎしていたのだ。教習所の合宿で知り合った同い年のひとらしい。  その噂を聞いたときは、アイリの精神的タフさに驚いてしまった。たとえ強がりだったとしても、うじうじしがちな自分にはできない振る舞いだと彼女のことを見直したのだ。 「何でみんなに言わなかったの? 蒼汰と付き合ってたこと」  アイリはミニスカートから足を投げ出して、スマホをいじりながら聞いてくる。
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