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「……ごめんね」私は素直に頭を下げた。
アイリの気持ちを知っていながら蒼汰とのことを黙っていたのだ。気分が悪くなるのは当然だと思った。
「別に謝んなくていいけどお。何で言わなかったのって聞いたんだけど? 陰で優越感に浸って笑ってたとか?」
口を歪ませるアイリに向かって、「笑ってなんかないよ」と即座に否定した。
「そんな余裕、私にはなかったんだよ」
蒼汰に群がる女の子たちの存在は私にとって常に脅威だった。羨ましかったのだ、いつも。アイリだけじゃない、他学部からわざわざ話しかけに来ていた結衣花も、蒼汰を追ってマンションまでついてきた新井紗理奈も。
蒼汰に片思いしていた女の子たちの、好きなひとを好きと素直に表現できる自信と強さが私には眩しくて、妬ましかった。
「じゃあどうして隠してたの?」
アイリがスマホから顔をあげ、釣り気味の大きな目で問い詰める。
「……一番、真剣だったから」自分でも、何でこう答えたのかはわからない。でも本心だった。
「蒼汰に恋してる子の中で、私がいちばん真剣だった」
きっぱりと断言すると、
「はあ~~っ?」とアイリが目を剥きながら素っ頓狂な声をあげた。
「それに、怖かったんだ。もし知られたら、寄ってたかって二人の関係を壊されるんじゃないかって。そんなこと絶対にさせるもんかって思ってた。このまま卒業して籍を入れるまで、ううん、このまま死ぬまでずっと私たちのことは周りの誰にも知られたくなかったの。だから彼にも口止めをお願いして……」
本当にごめんね、と私がうつむくと、
「重いわっ!」
とアイリに一喝された。かなり引いているらしく、強張った顔がわなわなと震えている。
「早い話がウチらを出し抜いてたってことでしょ!? あんたと蒼汰、どういう関係なのかはっきりしてくんないから、壊しようがなかったし!」
アイリは口を尖らせてぶーぶー言ってくる。陰気臭いとか根暗だとか、散々私に文句を投げつけたあと、すっきりした顔でこう言った。
「それでー? あのカメラ馬鹿は元気でやってんのお?」
蒼汰が大学からいなくなって以来、はじめて彼の近況に触れてきたのだ。アイリなりの気持ちの整理かもしれなかった。
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