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同じ学科のユズちゃんは学食でプチトマトを頬張りながらこうほめてくれた。
「結愛ちゃんって、ちょっと雰囲気が変わったよねー。すごく話しかけやすくなったっていうか」
マスカラで重量を増したまつ毛をしぱしぱと瞬かせながら、小首をかしげている。専門科目で隣になったことがきっかけで、私にもお昼を一緒に食べたり、お喋りする友達ができたのだ。
「あたしもそう思う。存在は何となく知ってた程度だけど、どこか寂しそうだったもんねー」
去年は講義室でお互い顔すらまともに見たことがなかった栗原さんも、同じ学科だったことを知り、今年に入って話すようになった。
頬杖をついて、サンドイッチをぱくつきながら、「今の結愛っちのほうが、絡みやすいわ!」と断言してくれた。
くすぐったい思いで聞いていると、
「何かねぇ、『別のひと』みたいよ!」
ユズちゃんに明るくそう言われて、どきっとしてしまった。
別のひと……。
その言い方があまりにも自然で愛にあふれたものだったから、私が蒼汰に投げつけていた言葉とは、まったく違うものとして響いたのだ。
友達ってすごい、とそのとき震えた。自分では気づけない新しい発見をくれるのだ。
次の話題で盛り上がっているユズちゃんと栗原さんの笑い声を聞きながら、私は蒼汰のことを思い浮かべていた。
結局アメリカの病院でも、そのあとに診てもらった他の病院でも蒼汰の記憶が戻ることはなかった。事故に巻き込まれる前の私との思い出はどこかへ霧散したままだ。
けれど私は蒼汰が納得しているならそれで構わないと思っていた。大切なのは今の蒼汰と私だから。
蒼汰……。こっちは元気でやってるよ?
私は心の中でつぶやいた。
周りのみんなが助けてくれるから何とか一人で立っているよ。
だから、安心してね。
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