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柊の世話係
朝、呼び出されたキヨノに、朧は言った。
「キヨノ、唐突ですが、本日から新しい仕事をやってもらいます。」
他の下女や女中達もいるのかと思いきやキヨノ一人。
新しい仕事とは、何をするのだろうか。
「朧様、新しい仕事とは何なのですか?私だけみたいですけど…。」
「立ち入り禁止区域をご存知ですか?」
朧から出てきた言葉にキヨノは目を見開くが、平静をよそおう。
「は、はい…何があるのかまでは、わかりませんが…。」
無意識に目をそらしつつ言った為、朧には見抜かれていたかもしれないが、そのままやり過ごすしかない。
「そこには久我家の先祖の方達が眠る墓があります。
普段は久我家の者か、限られた者以外の立ち入りを禁じているので、一帯を立ち入り禁止にしているのです。」
柊がいる離れ以外にも、久我家の墓がある事は知らなかった。
「それで、私の仕事とは何ですか?」
「本題です。お供え物として三食の食事を、離れに持っていって欲しいのです。
離れは聖域という事になっていますから。錠を開けて中に置きなさい。
…その意味がわかりますか?」
意味ありげな朧の言葉に、キヨノは神妙にうなずいて見せる。
目を見て、全て見抜かれているとキヨノは思った。
要は『柊に食事を持っていけ。』と、朧は言っている。
久我家の先祖へのお供え物という体で。
「それはわかりましたが…朧様、どうして私なんですか?私は新米です。
久我家の聖域に立ち入るなんて、本当に私で良いのですか?」
「これは今まで私が行ってきた仕事ですが…。
どうしても、あの方が貴女を御所望なので、仕方がありません。
そこに関して、私の意思はありませんよ。」
朧の自嘲気味で、やけに遠回しな言い方で、『あの方』が柊を指しているのだとわかった。
柊がキヨノを呼んでいるというのか。
「わかりました。私にお任せ下さい。」
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