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キヨノは千代と取り巻きの顔を思いだし、腹立たしさを覚えたので脳裏からかき消す。
「それを私に話してどうする。
貴様の悩みを聞く為に、私はここにいるのではないぞ。」
溜め息をつかれた。
キヨノとしては、勝手に悩み相談として男に話していた。
「そういえば以前の事で気になっていたのですが、あなたは昭太郎様とどういう関係なんですか?
あの時、双子だと昭太郎様は言ってましたけど…。」
キヨノは思い出して、何気無く言っていた。
姿は見えないが、男が固まったような気がした。
しばらく間を置いてから、今までで一番の溜め息をつかれた。
「私は明かすつもりはなかったが…あの愚かな跡継ぎがべらべらと喋ってくれたからな。」
「えっと…?」
「名乗っていなかったな。
私は昭太郎の双子の弟、柊。
久我家の呪いに縛られる者。」
謎の男、柊は冷やかな声音でそう言った。
「双子…だからあなたは、ここに幽閉されているのですか?」
この時代、双子は忌み嫌われている存在だった。
跡継ぎ争いが起きてややこしくなるからだとも言われ、産まれた者が双子だとわかれば、養子として出されたら運が良い方。
捨てられたり殺されたりする場合もある。
「それだけではないが…そういうことになる。」
「そんな…昭太郎様と同じ武家の血を引くのに、双子だと言うだけでそんな仕打ちを受けるなんて…。」
なんて世知辛い世なのか。
武家に生まれた者は皆、恵まれているのだとばかりにキヨノは思っていた。
「久我家は産まれたばかりの私を養子に出すことも考えたそうだが…。
私は、外に出るにしては少々目立つ。
呪いが洩れない為の苦肉の策だろうな。」
「呪い…?あの柊様、あなたはよろしいのですか?
ここでの生活を、送り続ける事を。」
疑問は多いが、キヨノが気になった事を問うと、返事が返ってこなくなった。
「あの、柊様…?」
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