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恐る恐る、キヨノが再び問う。
「わからない、考えた事もない。
これが私にとっての当たり前だからだ。
貴様に問われるまで、この生活に疑問を抱いた事はなかった。」
感情の込められていない、無機質な声だった。
キヨノはなんて答えて良いかわからず、辺りは静寂に包まれた。
しばらくして、重苦しく溜め息を吐く声が聞こえた。
「…そろそろ戻れ。
盗みの罪を着せられ、痛い目を見たのだろう。
さらに立ち入り禁止の場所にいたと知れたら、貴様もただでは済まないぞ。」
自身の事に関しては無頓着だが、人を気にかける事もあるようだ。
謎に満ちていて奇妙で、読めない人だ。
「わかりました。また来ます!」
「ほう、言ったな?その言葉に嘘偽りはないな?」
「えっ?」
なんて事なく言ったつもりだが、即座に返ってきた言葉にキヨノは目を瞬く。
「私の秘密の一部を知ったのだ。
…さて、そろそろ貴様の事を放っておくわけにもいかなくなってきたわけだが。」
微かに感情がこもった声音は、キヨノをからかっているのか、あるいは本気なのかはよくわからなかった。
「えっと、本日の所は屋敷に戻りますね!」
呆気に取られながらも、キヨノはそそくさと逃げるように、その場を去っていたのだった。
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