不遇な二人

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 暮れ六つ、(おぼろ)が屋敷の立ち入り区域にいた。 人気がないか、辺りを確認しながら手に弁当を抱え、足はまっすぐに離れに向かっていた。 (おぼろ)は離れの扉の前に弁当を置くと、錠を外す。  扉を開け、(おぼろ)(ひいらぎ)が顔を合わせる。  「おや、貴方(あなた)が出迎えとは珍しい。食事を持って参りましたよ。」  「(おぼろ)、そろそろ貴様の顔も見飽きた。次からは別の者を寄越(よこ)せ。」  「貴方(あなた)が珍しく出迎えた理由はそれですか。 唐突(とうとつ)に無理難題を突きつけてきますね。 そもそも貴方(あなた)を知る者は私と、限られた者しかいないというのに。」  普段、幽閉された柊の元に食事を持ってくるのは(おぼろ)の役割だった。   何も知らない奉公人達への説明としては、立ち入り禁止区域の事は、先祖達の眠る聖域という事になっている。 事実、墓もあるので、嘘ではない。 三食持っていく食事は、先祖達のお供え物だとも。  久我家の血を引く者以外は、そこに人が幽閉されているとは夢にも思わない。  「キヨノという下女がいただろう。 これからはその者を呼べ。」  その時、聞こえた言葉に、(おぼろ)は己の耳を思わず疑った。  「どうして貴方(あなた)がキヨノの名を…もしかして、ここに来たのですか?あの子は。」  「既に何度か。貴様の監視が甘いせいだ。」 キヨノが以前(おぼろ)に、立ち入り禁止区域の事を聞いてきた事があった。 その時には既に、(ひいらぎ)と会っていた可能性がある。  「それは彼女に代わって私が謝罪します。 しかし貴方(あなた)には悪いですが、彼女をここに呼び寄せるということは出来ません。」  「それならそれで構わないが、その代わりに私は私の好きにさせてもらう。 言いたいことがわかるか? 貴様が断るつもりなら、私は何をするかわからぬぞ。」 それは脅しと同じだった。
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