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鬼子と跡継ぎは、二つに一つ。
それが久我家が鬼子の柊を始末できない理由だ。
柊は目元が前髪で隠れ、ほとんど表情を伺う事ができない。
隙間から覗く眼光は鋭く、無機質だ。
それ故、何を企んでいるのかも読めなかった。
「貴方…まさか、本気ですか?」
「どう捉えるかは貴様次第だが、そうだな。
本気だと言っておこう。」
柊が他者に対してそんな態度を取る事も、そこまでの関心を持つ事も、非常に珍しい。
「…わかりました。私が原因で、昭太郎様まで命を落とすような事があっては、困りますから。」
仮にも相手は、封じられたと言えど跡継ぎと同等の血を引く者。
普段は無かったものとされ、離れに幽閉されていても、本来持つ権力もまた、それだけ強い。
柊に何をするかわからないと言われた以上、朧もまた、それに従う他なかった。
「察しが良くて助かる。」
柊の言葉に、朧は目を細めた。
「そうでないと、旦那様に迷惑がかかりますから。」
朧は久我家の主の側室にして従順な側近であった。
主の言う事は必ず聞き、迷惑がかかるような真似は決してしない。
跡継ぎの昭太郎が命を落とす事は、久我家の主が望む事ではない。
「ご安心を。明日、キヨノを連れて参ります。
あの子も運がありませんね。
よりにもよって、貴方に目をかけられるとは。」
「元より貴様のものでも何でもないだろう。
貴様は父上の世話の方でも専念していろ。
それに屋敷の方にいても、あの者にとっては負担が掛かるだけであろう。」
「否定出来ないのが、耳の痛い所です。」
朧は苦笑して、目を細めていた。
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