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首を傾げながら、何気無く細められた目があまりにも鋭くて、ぞくりと微かに覚える恐怖。
キヨノは怯えから、目をそらしていた。
そもそも人の手を先に掴んだのはあちらが先だと言うのに、ずいぶん自分勝手な限りである。
キヨノは内心では不満があったが、この者は仮にも跡継ぎの昭太郎と双子なのだと思い出し、仕方なく言う。
「それは失礼しました。
次の昼食にまた来ますので。」
そそくさとキヨノは逃げるように、離れを出ていた。
言葉だけを交わしていた時よりも柊は態度も雰囲気も冷たくて、少しだけ怖いとキヨノは思った。
これなら屋敷にいるのも、離れに飯を届けるのも、大差ないかもしれない。
先が思いやられると思いながら、キヨノは溜め息をついていた。
それから次の昼になって、キヨノは今度は昼食を持ってきた。
柊は書物に目をくれて、やって来たキヨノに目も向けない。
「お弁当、持って参りました。」
「そこに置いておけ。」
「は、はい…。」
恐る恐る食事を机に置いて、再び逃げるようにして去ろうとしたが、
「おい。」
声がかけられ、キヨノはその場で動きを止める。
「な、なにか?」
初めて向けられた目が、キヨノを捉えた。
たったそれだけで動けなくなる。
「朝の弁当を忘れているぞ。」
キヨノが目を向けると確かに、朝食を入れていた弁当が、柊のそばで放置されていた。
「申し訳ありません。」
空の弁当を抱えたところでキヨノはふと疑問を抱き、柊を見やる。
「…柊様、どうして私なのですか?」
向けられた目線。
微かに動いた眉が怪訝に揺れた。
「何の事だ。」
「食事を運ぶ係です。
今までは朧様がやっていたと、聞きました。」
キヨノの問いに、柊は興味を失くしたように目をそらす。
目線は再び書物に向けられた。
「さあ…強いて言うなら、気まぐれだ。」
まるで他人事のように呟かれた言葉に、意図を見出すのは難しかった。
その気まぐれにキヨノも振り回されているのかと悶々としたが、ぐっと堪える。
背を向けたキヨノを、柊が見つめていた事には気づかなかった。
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