昭太郎と柊の秘密

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 宗次郎は(あざけ)るように笑って言った。 (ひいらぎ)はそれを見下ろし、目を細める。  「口だけはよく動くな。 つまり貴様は、それだけ私の事を恐れているということだ。」  「恐れているだと…!?ふざけるな!誰が貴様を…っ!」  (ひいらぎ)が氷のような薄い微笑(ほほえ)みを見せて踏み出すと、宗次郎が下がる。  「な、なんのつもりで…っ」  その差を埋めるように踏み込めば、宗次郎はさらに距離を取って下がるも転びそうになって、近くの塀に背がぶつかる。  「ひっ…」 逃げ場を無くした宗次郎は青ざめて、(ひいらぎ)を見上げて息を呑んだ。  「おぞましいアザのある化け物に近すぎたら、どうなると思う? 久我家の鬼の呪いが、貴様にまでうつるやもしれないな?」  冷や汗を流す宗次郎を見下ろして、(ひいらぎ)が言い放っていた。 宗次郎の瞳は強気だが、その奥底には怯えが見え隠れしている。 (けが)らわしい化け物を見るような眼差(まなざ)しだ。  「近づくな!鬼子の呪いがうつったら、どうするつもりだ!?」  宗次郎は力のままに(ひいらぎ)を突き飛ばす。 抜き放った刀を構えていた。  (ひいらぎ)は腕を組み、態度を変えずに小首を(かし)げる。  「ふん、呪いがあったら私に関わる者にもとっくに影響が出ている事だろう。 (おぼろ)もキヨノも昭太郎も、呑気(のんき)に毎日を送っている。」  「そんなもの、長期的に見たらわからないじゃないか…。鬼子の言葉など信用できるか。 それにキヨノを側に置いているのも気に食わない。 本当、鬼子も兄上も(かん)に触る…。」 宗次郎は舌打ちをすると刀を振り下ろす。 (ひいらぎ)は即座に(さや)から刀を抜き放つと、受け止めていた。  「やめておけ。私は争いたいわけではない。」  (ひいらぎ)が刀を(はじ)くが、宗次郎は連続で刀を振るう。 そのどれもが(ひいらぎ)に受け止められると、宗次郎は攻撃をやめて、睨みながら息を吐いていた。  「余裕ぶった態度も腹立たしい…。 鬼の呪いを受けた貴様が、表に出るだなんておこがましい。 ずっと死ぬまで幽閉されたままでいれば良かったんだ。 (いにしえ)の鬼子達と同じように…。 いずれ、鬼子が外に出た(むく)いが貴様にも訪れるだろうな。 その時が、僕は楽しみだ。」  それは怨嗟(えんさ)のような、低くどす黒い響きを持っていた。  言葉を吐き捨てた宗次郎は刀を(さや)に納める。 身を(ひるがえ)すと、去っていった。  「ずいぶん、恨まれたものだ。」  (ひいらぎ)は鼻で笑って、手元の短刀を見下ろしていた。 宗次郎は(いきどお)って、短刀の存在すら忘れていなくなった。 磨かれた小綺麗な短刀には、アザのある(ひいらぎ)自身が反射してうつっていた。  それは自身でも認めるほど醜いアザを持っていた。 それは生まれつきでなりたくてなったわけでもなく、消したくて消せるようなものでもない。 (ひいらぎ)は己自身を見やって、自嘲(じちょう)気味に笑んでいた。
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