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その答えは平和的なものだった。この会場にスイーツが並ぶまで待てず、夏樹専用でデザートを頼んだそうだ。すぐ近くに厨房があり、夏樹はそこへ取りに行っている。ここへ運んでもらわなかった理由は、しばらく口を聞きたくないと宣言されたからだ。黒崎さんは楽しそうである。
「一人で行ったんですか?」
「いいや、一貴に付き添いを頼んだ。廊下の突き当りがキッチンだ」
「あああ、もっと危険だと思います」
「プラセルの社長がいるから、妙な真似をする奴がいない。大丈夫だ」
「あああ、そういう意味ではなくて。カズさんが危険なんです!あああ……」
どうしよう?兄貴のことを悪く言われたくないはずだ。いくら俺達に迷惑をかけまくったとはいえ、それはそれである。べつに、3人で遊びたいわけではない。今までの経験上で話している。どれだけのことが起きたのか、黒崎さんに語っておく。様子が見に行けない。
「かくかくしかじかなんですーー」
「ああ、知っている。妙な兄貴がすまない。……夏樹が無事なら構わない。デザートを受け取り、ここへ戻って来る。少しは気分が変わるはずだ」
「ほお……」
「ありがとう。心配をかけた。そろそろ機嫌を直す頃だ」
「ははは。食べた後は、どうするんだ?部屋を取ってあるのか?」
「もちろん用意した。ここへ来るまで休んでいた」
「ははは。本当に休んでいたのか?」
「ああ、休んでいた。軽く抱いたからな」
「あああ……」
どうしよう?とてもナチュラルに、秘め事を語り始めた。アツアツな情事を想像させられて、機嫌が悪くなった理由が分からない。何か変な事をされたのか?いいや、それはあり得ない。
親友として理解している部分は大きい。バンドメンバーとして、アマチュア時代から歩いて来た。大学生活でも寄りかかって転び、レポート課題をクリアして進んでいる。その親友を悲しませたくない。一方的に機嫌を損ねたのは、想像できる。黒崎さんだからこそだ。
「悠人、理由を聞かない方がいい。圭一さんの発想には、ドン引きするぞ」
「……軽く抱いたからだろう。30分じゃ満足してもらえない。手早くするならやめろと言われている」
「ゆうとー、いい子は聞いてはいけません。もっと背中にすがりつけておけ」
「あああ……」
どうしよう?黒崎さんが出入り口の方を向いて微笑んだ。そこには夏樹が立っていて、大きな皿を持っている。満面の笑顔なのは、好みの内容だったからだ。そして、黒崎さんがクールにデレデレした様子になった。夏樹が微笑みながら歩いて来たからだ。
「黒崎さん。おまたせ!このタルトは特製なんだね」
「今夜、部屋にも運ばせる。どんなものか楽しみにしていろ」
「ふん……」
「夏樹、どうした?」
「そうやって機嫌を取るってことは、何か隠しているだろ?」
「困った子だ。さあ、食べておこう」
「ふうん?」
夏樹が小首をかしげて唇を尖らせながら、微笑みかけている。黒崎さんがさらにデレデレした姿に変わり、椅子を引いて座らせてやった。そして、食べている姿を観察し始めた。取り残された俺達はアホらしくなり、カズさんを探しに行った。
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