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20-26
17時。
警察署で事情を聞かれた後、渋谷に戻ってきた。俺達の隣には伊吹さんと桜木さんがいる。そして、ミユさんもいる。ミユさんとは警察署で再会した。さっき、一緒にドラッグストアに行き、タイツを買ってきたところだ。これから泊まっているホテルにチェックインして一休みした後、マーリンに向かうという。今、俺はミユさんと話している。
「今日はお互いに大変でしたねーー」
「本当にそうですねーー」
「僕たち、まさかあんなことになるなんて思わなくて……」
「そうですよね!キーホルダー販売の人が体当たりしてくるなんて……」
「ははは。でも、僕は日頃から鍛えてあるんで、ちっとも痛くありませんでした……」
「悠人君。嘘はいけないよ。痛かったはずだ」
「へへへ……」
どうしよう?かっこつけてしまった。警察署に入った後、先に警察署に入っていた男がロビーに居た。これから部屋で話を聞かれるのだろうと思っていたら、なんと、その男が逃げ出して、その勢いで俺に体当たりしてきて、俺は尻もちをついてしまった。男はすぐに捕らえられて、別室に連れて行かれていた。
その後、俺と早瀬と久弥が事情をもう一度聞かれて、駆けつけてたマネージャーと会った。今回のことが記事になりそうだという。俺達が渋谷からパトカーに乗っているときに、久弥だ、悠人だという声が聞こえていた。だから、誤解が無いように、記事が出た方がいいのだという。タイトルはもう決まっていて、”佐伯久弥だと分からずに勧誘。ディアドロップの佐久弥の友人だと言って勧誘した男が逮捕”だそうだ。俺達も恥ずかしい。もっとメディアに露出が必要だと感じた。
久弥は事務所の車で帰っていった。俺達は車を渋谷の駐車場に止めてあるから、ここに戻ってきた。そして、ミユさんと話しているところを伊吹さん達に会い、立ち話をしている。
「桜木さん。そんなに落ち込まないで下さい……」
「いや、今日のことはさすがに俺が悪い……」
「よくあることですよ……」
「いや……。いぶきーー。ごめんなさい」
どうしよう?桜木さんが謝っている姿なんて、初めて見た気がする。事の発端は今朝のことだという。伊吹さんがマーリンに行くために家を出るとき、鍵が無かったから、てっきりもう自分のバッグに入れてあるものだと思って、家を出たそうだ。実は、桜木さんが伊吹さんが出かけられないように鍵を隠していたのだった。そして、そんなことをすっかり忘れて伊吹さんを尾行し、マーリンの前で俺と早瀬に会ったというわけだ。
その後、鍵を探す伊吹さんに呆れていたが、まさか自分が持っているとは思わず、アルデバラン先生に占って貰った結果、すぐ近くにあるという鑑定内容で、伊吹さんが個別ブースの中でポケットを探った。バッグの中も見た。しかし、ない。すると、アルデバラン先生が、桜木さんが二つ持っていないかと言い、桜木さんが思い出した。そして、彼のバッグから伊吹さんの分の家の鍵が出てきたというわけである。
「アルデバラン先生もすごいわ。よく当たりますよねーーー」
「ミユさんは、どんなことで占ってもらうんですか?」
「来年の運気のことです。引っ越しを考えていて、そのことも……」
「いい鑑定結果だと良いですね!」
「はい!じゃあ、私はこれで……」
「またお会いしましょう!」
俺達はミユさんと名刺交換を行った。ミユさんはライターなのだという。主に、地元のグルメ特集の記事や、ライブレポートを書いている人だという。来年はTDDのコンサートに来てくれるというから、再会が楽しみだ。
彼女の泊まるホテルはマーリンの近くにある。俺達は彼女に手を振り、大きなスーツケースを持ってスクランブル交差点を渡っていく後ろ姿を見送った。
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