20-27

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20-27

 20時。  今日は外食をして帰ってきた。俺の手元には、学館・モウモウがある。渋谷の書店で買ってきた。5冊積んであったから、購読者が多いのだと分かった。あと1週間もすれば、次の号が発売される。俺が買っていると、他にも買っている人を見かけた。  今月の特集は、古代遺跡と異星人の謎である。モウー星人という異星人がいるらしい。彼らの乗っている宇宙船の底には共通のマークがあり、グラビアページには、そのマークがはっきりと写った写真が載っていた。 「ほお……。地球にはどんな理由で来ているのかっていう、謎解きの記事だよ。地質調査とか、古代遺跡の写真を撮りに来たんじゃないかとか書いてあるよーー」 「へえーーー。こっちの写真もすごいじゃないか。宇宙船の窓が写っているよ」 「ほんとだねーー。合成写真かな?」 「さあーー、どうだろうね?」 「モウー星人なんて、初めて聞いたよ。裕理さんは、どう?」 「実は、俺は聞いたことがあるんだ。やっぱり、蔵之介か久弥が読んでいたんだろう。うちのお母さんが言っていたんだけど、アンドロメダ星人っていう人がいたんだって。テレビでやっていたそうだ。UFOから降りてきて、話しかけてきたんだっていう人が、インタビューに答えていたそうだ」 「玲子ママって、モウモウに興味があるのかな?」 「聞いてみようか?」 「ほお……」  早瀬が玲子ママに電話をかけ始めた。気軽にである。以前なんか、こんな光景は見られなかったのに。そして、今日は占いの店に行って来たということと、久弥がキーホルダー販売の男から勧誘されて、警察署に行ったのだと話し始めた。そして、記事が出るということも報告していた。 「お母さん。俺達も久弥も無事だ。でも、大変な人を見かけたんだよ。かくかくしかじかだ。駅の切符売り場で男に体当たりされて、五千円を取られた女性がいたんだ。物騒だね。お母さんも気を付けて。……それで今、学館・モウモウっていう雑誌を読んでいるんだけど、お母さん、昔、俺に、アンドロメダ星人っていう人がいたんだっていうテレビの話をしていなかったか?……ああ、覚えているのか。モウモウって、俺、読んだことがあったっけ?ああ、あったのか。そうか、久弥が読んでいたのか。……なんだって?俺達、精霊を呼ぼうとしていたのか。へーー。中学生の時か。覚えていないなあ。……え?動画を作るのかーー。お父さんとかーー。ハワイに日帰り旅行するのか?……へえ、日光に行くのか。いいじゃないか。ぜひ、動画を見せてくれ。アップすると良いよ。……お母さんの方が乗り気なんだね。そうだよね。ワイドショーに出たんだから、もう恥ずかしくないよね。……悠人にかわるよ」  早瀬からスマホを渡された。さっそく俺は今日のことを報告した。そして、動画のアップを楽しみにしていると話すと、もう家の中で撮っているのだという。夕食の風景と、その後の団らんの様子らしい。長年連れ添ってきた夫婦が別居して、たまに会って食事をしている光景を紹介したいのだという。お父さんが近くに居るそうだ。なんと、今、UFOの番組が流れていて、見ていたところだという。お母さんは後で録画を見て、今はお父さんを撮っているそうだ。 「お母さん。おやすみなさい」 「はい。おやすみなさい」  プツ。電話を切ると、早瀬が顔をこわばらせていた。そして、向こうの様子を思うと、肩が凝ってきたそうだ。一体、どんな話をしているのだろうと。冷え凍りそうな会話、シーンと静まりかえった食卓。それが思い出だという。しかし、今ではビデオカメラを回しているなら、良かったのではないだろうか。
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