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ペットブームに卯年が重なって、ペットとしてウサギを飼い始める人間が増えた一方で、「思っていたのと違う」なんて身勝手な理由で飼育放棄する人間も多々存在した。
ボクの飼い主だった人間もそんな一人。
自分勝手な理由でボクを捨てた。
ボクのことを「兎」とか「ウサ」とか呼んで、まともな名前も付けてくれなかった飼い主の顔は、もう思い出せないけれど。
ただ、ボクと一緒に飼われていた犬は、ボクのことを可愛がってくれていたっけ。
寒さに震えていたら、近くに来て尻尾でくるんで一緒に眠ってくれたし、飼い主がボクの餌を用意してくれない日には、自分のを分けようとしてくれたりして。
だけどそれが飼い主に見付かって、駄犬とか怒鳴られて、怒られて……。
ボクのせいでごめんね。
ボクは捨てられてしまったけれど、あの子は、無事だといいな。
冷たい雨。
奪われていく体温。
餌がもらえなくても雨に濡れることが無い家で過ごすのと、時に凍てつくような雨に打たれることがあっても、自分で餌を見つけ出せる可能性がある今……か。
どっちがよかったのかなぁ……?
思考がうまくまとまらない。
だんだんと意識が遠退いていく。
生まれた時から人間に飼育され、離乳後は人間から餌をもらって生きてきたボクに野生的なモノは残っていなくて……自分で餌を見つけ出せる可能性なんて、はじめから無かったみたい。
もうここで、眠ってしまおう……そう、思った時。
「ワンッ」
遠くから、聞き覚えのある鳴き声が聞こえた気がして、雨に濡れて重い耳を必死に動かす。
地面に跳ねる水の音に混じって、何かが聞こえる。
車とか言う大きい箱が通る音とも違う。
水面を叩いたような、地面を駆けるような……ゆったりと歩いているような足音とは異質なその音は、どうやらこちらへ近づいてきている。
雨音に混じる足音は、ボクの近くでピタリと止まった。
「くぅーん」
気遣わしげな鳴き声に、重いまぶたをあげて見上げれば……キミは、あの飼い主のところにいた……犬?
ふわふわだった毛並みも雨に濡れてしまっていて重そうで、体温を容赦なく奪う雨は、ボクを心配そうに見つめている彼の毛をつたい地面に滴り落ちている。
「きゅいーん……」
そっか。
キミはボクを迎えに来てくれたんだね。
だけど……ごめんね。
もう、意識が……。
ゴロゴロと、地面にまで響く轟音が空から断続的に聞こえていた。
まぶたは重くて開かないけれど、ボクを雨から庇うように、寄り添ってくれているぬくもりは感じていたんだ。
ドォン……と、轟音と共に眩しい光が周囲を覆う。
「雷っ!? まさか落ちたのか!?」
誰かが叫んでいる声が聞こえる。
雨の音に混じって、駆け寄ってくる足音も複数。
「近くに落ちたようだが、その犬は無事なのか!?」
「呼び掛けても反応しないのっ、このウサギも多分さっきの雷で感電している」
「どっちも意識が無くて、早くお医者さんに――」
その時にはもう既にボクたちは動けなかったはずなのに、不思議と声もぬくもりも感じることができたんだ。
眩しい光が周囲を覆ったそれが落雷だったのだとボクたちが知ったのは、異世界に転生した後だった。
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