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少し前に時間は遡るんだけど――。
ボクは、一面真っ白な空間で目覚めた。
だけど、意識があるだけで足も耳も動かせない。
真っ白な空間に、男性の声にも女性の声にも聞こえる不思議な声が聞こえてきて、その声の主は自分のことを「神」だと名乗ったんだ。
声だけの神様は、ボクが落雷に巻き込まれて死んじゃって、肉体を失い魂だけの存在になっていると言う。
体が動かせないんじゃなくて、そもそも今のボクには体が無かったんだね。
「フェンリルのお気に入りみたいだし、あの子が本来居た世界に、あの子と一緒に転生させてあげる」
相変わらず声だけで姿は見えないけれど、ボクが落雷に巻き込まれた時に側に居た犬は、この神様の眷属であるフェンリルという神獣の魂が呪いで犬として転生させられていた姿だったらしい。
神様に恋をした別の世界の神――区別するために堕ち神って呼ぶけれど、その堕ち神が神様に可愛がられている眷属に嫉妬して呪いをかけた。
神様の眷属たちの本体は、神様が管理している剣と魔法の世界に封印されていて、魂は記憶を封印されて別の世界に、ただの獣として転生させられていたみたい。
「これはキミのためだけじゃない。こちらにも利点はある。神が直接世界に干渉するには制限があるけれど、イレギュラーなキミになら、この場で力を与えて送り込んでしまえば、眷属のあの子たちの封印を解いてあげられる確率が上がるから」
眷属って、神様にとって家族みたいなものだよね?
封印は、どこかに閉じ込められているってこと?
わかったの。
神様の家族を助けるの、ボクも手伝ってあげる。
あの子と一緒に過ごせるならば、ボクも心強いよ。
「ありがとう。今日からキミは『ラヴィーネ』を名乗るといい。我が眷属の仲間入りだ。どうか、あの子たちを救って――」
神様の声を遠くに聞きながら、ボクはあたたかな光に包まれて意識を手放したんだ。
そして、ボクが目覚めたのは、優しそうな男の人のお膝の上。
神様は、あの子を『フェンリル』と呼んでいたし、この男の人があの子で、この世界では『フェンリル』が彼の名前なのだろう。
「フェンリル?」
見上げたまま、神様が言っていた名前で呼んでみる。
「ああ。ただ、フェンリルという名はこの世界では有名でな……正体を隠しておきたいし、人前では呼ばないでくれると助かる」
穏やかな表情と口調で話ながら、ボクを撫でてくれるフェンリルの手はあたたかい。
「わかったの。ボク……『ラヴィーネ』も、人前では喋らない方がいい?」
「この世界には、獣人と呼ばれる種族もいるから、そのままでも大丈夫だ。オレは、『ラヴィ』と呼ばせてもらうことにする」
神様が眷属化したってことは、『ラヴィーネ』のこともいずれ神殿に所属する神官さんが知ることになるだろうから、ボクもあまり人前では名乗らないほうがいいみたい。
「じゃあ、キミはフェンリルだから、『フェン』って呼ぶね」
「ああ。それでかまわない」
今のフェンリルは、人間と獣を合わせたみたいな姿をしているけれど、獣人と呼ばれる種族も、人間に獣のもふもふを合わせたみたいな姿なんだって。
「ラヴィ、ここはオレが管轄する神域。神に授かった力の練習を少ししたら、人間が暮らす街で情報収集しよう」
「わかった。がんばる」
ボクはフェンリルに教わりながら、神様からもらった力を確認して練習することになったの。
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