言えない

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言えない

駅からの帰り道、かっちゃんにメッセージを送った。 <今日は、月も星も出ていませんね> いつもはびっくりするくらい返信が早いのに、今日はいつまでも返信がなかった。 スマホをカバンにしまおうとして着信音が鳴った。 <傘を持っていないんですか?> そうか。 だから月も星も見えなかったのか…… 雨が降っている。 駅を出た時からずっと降っていたんだった。 <雨、降ってましたね> <外にいるんですか?> <家に帰る途中です> <何かありましたか?> <罰が当たりました> <罰って? solitusさんには 一番に相談する相手がいるじゃないですか 彼に言わないのですか?> <言えないんです> <嬉しいことも 悲しいことも きっと全部 聞きたいと思っていますよ> <彼にだから言えないんです> 上椙さんには言えない。 <聞きましょうか?> <言ったら 軽蔑します> <しませんよ> <かっちゃんまで失ったら わたし ひとりになってしまいます> <彼と別れる前提になってませんか?> <ダメだったんです> <聞かせて 約束します 絶対に1人にはしません> <大学生の時付き合ってると思っていた人 奥さんがいました 相手の奥さんに言われたました 消えてって だから地元を離れて 友達とも親とも 縁を切りました> わたしのせいで傷を…… <それなのに好きな人ができてしまった その人も好きだって言ってくれて そんなのダメだったのに> <何年も前のことでしょ?> <相手の奥さん 親友のお姉さんでした> <過去のことでしょ?> <その親友から電話がありました 明日会うんです 話がしたいと言われました> <どうして連絡先を知ったんですか?> <会社に来てる派遣の子と知り合いだったんです> <その派遣の子は solitusさんに彼ができたことを知ってるのですか?> その質問の答えはわからなかった。 会社の人には、マキちゃんにすら言っていない。 上椙さんも、わたしがマキちゃんに言うまで福治さんには言わないと言ってくれた。 <わからない> <違う話だとは考えられませんか?> 他の話なんて思いつかない。 <明日 どんな話だろうと必ず僕に連絡すること 約束して> <わかりました> <もうこれ以上 雨に濡れたままでいないで> <大丈夫です ちょうど家に着きました> <温かくして休んでください> <いつも ありがとうございます> <僕はsolitusさんの北極星でいたいから>
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