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理由
席に着くと、大西くんがいつものように椅子を寄せてきた。
「館山さん! 僕、すごいことに気がついちゃったんですよ!」
「何? 朝から」
「これ! 見てください!」
大西くんが見せてくれたのは、ゲームをしないわたしでも知っている、有名なゲームのパッケージだった。
「これがどうしたの?」
「ここ、制作した会社が書いてあるでしょ?」
大西くんの指差した先に「株式会社POLARIS」という記載があった。
「このゲームめちゃくちゃ売れてるから、どんだけ儲かってるんだろう? って思って調べてたんです。そしたら、こんなの見つけたんです!」
大西くんが自分のスマホの画面をわたしに見えるように近づけた。
画面に表示された記事は、民間の企業が科捜研にその技術を提供するという内容で、その技術を提供した会社として、株式会社POLARISのCEO上椙達也という名前と、そのコメントが掲載されていた。
「これって、あの上椙さんじゃないですかね?」
「でも、同姓同名ってこともあるんじゃない? 大きな会社のCEOまでしてる人がどうして他社に契約社員として……」
そこまで言いかけて気がついた。
これまでこの会社が契約社員を募集したことは一度もない。
それに、募集をかけて採用するまでの間に、その情報が総務を通らないわけがない。
でも、総務のマキちゃんは、社内で会って初めて上椙さんがこの会社に中途採用で入ったことを知った。
前から知り合いだったわけだから、書類を見たら気が付かないわけがない。
マキちゃんの結婚式でわたしを見かけたタイミングで運よくこの会社の求人を見つけたなんてことも都合が良すぎる。
つまり、何かの力が働いて、全ての手続きを飛び越えられたから、上椙さんはここにいたことになる。
「ねぇ、大西くん、もし本当にここに書かれてる上椙達也という人が、あの上椙さんだとしたら、うちの会社と何か関係があるのか、調べられる?」
「ああ、ちょっとやってみましょうか」
大西くんは、スマホにキーワードを散りばめながら検索を始めた。
「もしかして、これですかね?」
今度はわたしの方が大西くんのスマホが見えるように椅子を寄せた。
表示されていたのは英語のサイトで、写真もなかった。
「ごめん、読めない」
「ああ、これって、海外のセキュリティ会社が主催するハッキングコンテストのかなり古い記事で、まだ学生の日本人ペアが予選を2位で通過して、優勝はできなかったけど、結構いいところまでいった、みたいな内容が書かれてます。で、この日本人ペアの1人がTATSUYA UESUGIで、もう1人がIKUMI KAWABATA。この川端育美はこの会社の役員じゃないですか?」
役員と知り合いだったから、特別に入社できたってことなんだ。
だから、誰もが認めるくらい優秀だったのに、引き止められなかったんだ。
それに、会社のCEOなら、わざわざ誰かの下で働く理由なんてないのだから、契約を延長する必要もない。
「川端さんって、若いのに役員だからすごいと思ってだけど、上椙さんもすごい人だったんですね。」
大西くんはその後も食い入るように記事を読んでいた。
上椙さんがあの立派なマンションに住んでいた理由もこれだったんだ。
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