約束の日

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約束の日

「初めて会う約束をした日、わたしちゃんとあなたに会えてたんですね、かっちゃん」 「今日、可愛いね」 「かっちゃんに会うために頑張ったんです」 「それって、誰にヤキモチ妬いたらいい?」 「そんなの、わたしにはわかりません」 「どうしてわかった?」 「ネットであなたの記事を読みました。会社名のポラリスの名前の由来も」 「北極星か」 「それに、マキちゃんに聞いたんです。あなたがマキちゃんの旦那さんのことを何て呼んでいるか」 お昼休憩に、マキちゃんに尋ねた。 『ねぇ、マキちゃん、旦那さんの方は何て呼ばれてるの?』 『ああ、『フジ』って呼ばれてる。苗字はフクジなのにね』 「わたしのメッセージにいつも返信が早かったのは、それができる立場だったからなんですね」 「それじゃあまるで僕が暇してるみたいに聞こえる」 「一度だけ遅かった日は、あなたの送別会の日」 「ちょっと飲みすぎて気がつくのが遅れた」 「ありがとうございます。かっちゃんのおかげで、わたしはここまで来れました。大切な友達とちゃんと話すことができました。それから……酷いことを言ってごめんなさい」 「お礼を言われるようなことも、謝られることも、何もしてないよ」 「勝手なこと言ってるってわかってます。でも、わたしにチャンスをください。3日だけでいいから恋人として過ごしてください。それで、わたしのこと許せなかったら……あきらめます」 「それにはまず、ルールを守ってもらわないと」 「ルール?」 「会社の外では敬語を使わない。それから、もう一つ条件がある」 「何ですか?」 「何か話す時、最初に『会いたかった』ってつけて」 「それ、変じゃないですか?」 「どうする?」 「……やります」 「ルール守ってよ」 「美味しいお店を……いえ、えっと、会いたかった。お魚料理の美味しい店があるから……」 「うん」 「会いたかった。一緒に……行きませんか?」 「うん」 「会いたかった」 「うん」 「会いたかった……」 「うん」 「会いたかった。『もう会いたくない』なんて言って、ごめんなさい。上椙さんに会いたかった」 「僕も会いたかった」 いつもその優しさに甘えてばかりだった。 わたしは、過去のことを引きずってばかりいたのに。 「ごめん。僕には会えなくても、『かっちゃん』には会うんだと思って、意地悪した」 「両方、上椙さんなのに?」 「『もう会いたくない』って言われたのは、だいぶこたえた。でも、僕は別れたつもりなかったから。あんなの、ただのケンカでしょ? 違うの?」 「……違わない。ちょっと……ケンカした……だけ……」 あなたに会いたかった、って言えずにいたのに…… あなたのおかげで言うことができた。 何度も言うことができた。 「さっき、僕が君のことを許せなかたらあきらめる、って言ってたけど、あきらめるつもりだった?」 「あきらめない。何度でも理由を見つけてまたお願いする」 「魚料理の美味しいお店は今度にして、僕のマンションでデリバリーでも頼むんじゃダメ?」 「好きじゃなかった?」 「店の中でも抱きしめたままで、何度もキスをしていいんなら僕は構わないんだけど」 「一緒にいられるならどこだって構わない」 あなたと一緒にいられるなら、どこだって。
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