五百万円

1/1
前へ
/14ページ
次へ

五百万円

「そうよ。五百万円!」 「えェ、ご、五百万円もですかァ……?」  もちろんボクが拾った時はそんな大金など封筒の中には入っていなかった。 「ええ、両親の遺産なのよ。知らない?」 「し、知りませんよ。そんな大金」  ボクは思いっきり首を横に振った。 「ねえェ、返してよ。あれがないとどこにもいけないじゃん」  彼女は手を差し出した。まるでボクが盗んだようなモノの言い方だ。 「いやァ返してって。マジで封筒の中には、写真が三枚だけで、そんな大金なんて入ってませんでしたよ」  なおもボクは手を横に振って応えた。 「えェ、マジで。パクッたんじゃないの?」 「パ、パクッたって。人聞きが悪いですよ。ボクがそんなことするはずないじゃないですか」  いくら何でも心外だ。ボクが盗むはずはない。 「じゃァ警察へ通報して調べてもらうわ」  美少女はスマホを取り出そうとした。 「ちょっと待ってください。本当にボクはお金なんかパクッて、いや盗んでなんかいませんよ」 「わァーん、じゃァどうするのよ。あのお金は全財産なのよ。私、一文なしじゃん」  両手を広げ、大げさなジェスチャーでアピールをした。 「え、そうなんですか」  そんなことを言われても五百万円なんて大金、ボクだって返せるような金額ではない。  第一、ボクは盗んでもいないのだ。 「腹へったァーー。何か食べたァい。でも、お金がなァい。どうするのよォーーッ!」  ソファに寝転がって駄々っ子みたいに足をバタバタさせた。 「いやァ、頼みますから、そんな泣かないでくださいよ。家にある物でしたら何でも食べて構いませんから」  ここはなんとか食事をしてもらって穏便に済ませたい。 「じゃァ、なにか作ってよ」 「ううゥッボクが、料理を作るんですか?」 「なによ。イヤなの。信じられなァい。私の五百万円もパクッたクセに」 「いやいやァ、パクッてなんかいませんよ」 「じゃァ警察へ通報して逮捕してもらうわ」  彼女はスマホを取り出した。 「ちょっと待ってください。わかりました。料理しますから。警察へ通報するのは()しましょう。面倒ですから。でも、たいした料理はできませんよ」 「もォ何でもいいから早くしなさいよ。お(なか)ペッコリーナ姫のお通りよ」 「はァ、どこの異世界のお姫様ですか。お(なか)ペッコリーナ姫って」  取り敢えずこれ以上、駄々をこねられても困ってしまう。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加