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ひとつ屋根の下で
「え、十年もですかァ?」
冗談だろう。そんなに長く泊まる気なのか。
「なによ。短すぎる?」
「いやいや、決して短過ぎはしませんけど」
どちらかといえば長過ぎるだろう。ジョークなのか。それともマジで言っているのか。この子は。
「ほらァだってアイの全財産をパクられちゃったんだから。誰かさんに!」
まるで真犯人でも見るような冷たい眼差しでボクを睨んだ。
「いえいえ、マジでボクじゃァありませんよ。パクッたのは」
必死に弁解をした。困ったものだ。ボクが盗んだと疑われていた。
「じゃァアイの部屋は?」
「え、そうですね。どうぞ。空いている部屋をご自由に使ってください。ええェっと、ここがゲストルームですね」
「ふぅん、じゃァここで良いわ」
彼女は気に入ってくれたみたいだ。
ひとまずアイにはゲストルームへ泊まって貰うことにした。
体の良いシェアハウスだ。
もちろん全財産が無くなったというアイから家賃も食費も貰うつもりはない。
「ああァ、今日からここが私の部屋なのね」
アイはベッドへ飛び込んで大の字に寝転んだ。
「はァ……」
こうして有耶無耶のうちに、ボクと南波アイはひとつ屋根の下で暮らすこととなった。
「ねえェッ、ケント。お風呂は?」
彼女はベッドに寝転がってスマホをイジったままボクへ命じた。
「ハイハイ、今すぐ沸かしますね」
「ねえェ、ケント。お菓子は?」
「あ、ハイ、チョコか、ビスケットならこちらをどうぞ!」
お菓子の詰め合わせを出した。
「ねえェ、悪いけど宿題もやっておいて」
「え、ボクがですか?」
「そうよ。ほらァ、アイは枕が変わると宿題のできないタイプじゃん」
「どんなタイプですか?」メチャクチャな言い訳だ。
「それからアイスコーヒー飲みたいの」
「ハイハイ、今すぐ作りますね。お待ちください」
「ミルクたっぷりね。お砂糖は少し」
彼女はソファへ寝転がってボクをアゴで指示した。
「ハ、ハイ、わかりました」
まるでボクは体の良い召使いだ。
はじめは身勝手でワガママなので困ってしまったが、可愛らしいので許してしまった。
推しのアイドルと暮らしていると思えば苦にならない。むしろ嬉しいくらいだ。
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