桜空

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水族館からの帰り道。ほとんど会話という会話がなくて。車内はしんと静まり返り息苦しいくらい気まずい空気が流れていた。ハンドルを握る桐島さんが心配そうにバックミラー越しに僕たちをチラチラと見ていた。 「電話、出なくてもいいの?」 「電話?」 「さっきから鳴ってない?気のせいじゃないよね?」 藤堂さんに言われるまで着信があったことにぜんぜん気付かなかった。携帯の画面をちらっと見ると、枡さんと美紀さんから三回も電話があった。 「一緒に働いている人?」 「はい」こくりと頷いた。 「もしかしてさっき唯花に谷口海知を知らないかと聞いた女性?」 「そうです。名前は枡さんです。もう一人は駐車場に僕と一緒にいた美紀さんという方です」 「ふ~~ん、そうなんだ」 薄暗い車内。藤堂さんの表情はよくは見えない。なぜかぶっきらぼうな言い方をするとぷいっとそっぽを向いてしまった。藤堂さんの気を悪くするようなことを言った覚えはないのに。どうして?訳が分からなくて。声を掛けたくてもその勇気が出なくて。ただ携帯の画面を見るしか出来なかった。切なくて胸がぎゅっと苦しくなった。
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