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その後彼はなぜか7時前には出社してくるようになって、おはよう、一緒にコーヒー飲まない?朝御飯食べない?と聞いてくるようになった。仕事中ですからと丁重に断ってもそう簡単には諦めなかった。
子どものように笑う彼。
強引だけどなぜか憎めなくて。それに相手は男なのに、と自分でも不思議だけど、彼のことを思い出すと苦しいような甘酸っぱい感覚が胸を満たしてドキドキしてしまう。彼だけは特別に思えた。一目で恋に落ちたと僕はそう思っている。でもまさか同性を好きになるなんて思いもしなかった。
同じ男で、うんと年上でバリバリに働いている大人のひと。きらきらと輝いて見えた。でも僕の初恋はあっけなく終わりを告げた。
「えぇ~~嘘、彼のこと何も知らないの?普通名前くらい聞かない?」
一緒に働く美紀さんが驚いたような声をあげた。
「だって聞くのも失礼かなって」
「あのね」
ため息をつくと携帯を操作して画面を見せてくれた。
「いい桜空一回しか言わないからよく聞くのよ。彼はあの会社の副社長で名前は藤堂一輝。年は28歳よ。彼には親が決めた許嫁がいるの」
「許嫁?」
「その顔分かってない顔だよね?」
「許嫁くらい僕でも分かるよ」
「本当に?」
痛いところを指摘されどきっとした。
「女優さんみたいに綺麗なひと……」
スレンダーでスタイル抜群。彼と並ぶ姿は絵に描いたような美男美女。まさにお似合いだった。名前は長谷唯花。名は体を表すとはまさに彼女のことをいうのだろう。清楚でめちゃくちゃ美人でおしとやかそうだった。
「確かに綺麗だけど中身はどうかしらね。あまりいい噂は聞かないけど」
美紀さんはそれ以上のことは避けた。
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