桜空

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丁寧に断ったけど、必要経費です。受け取ってくださいと、タクシー代と食費に使ってくださいと五万もの大金をぽんと渡され呆気に取られてしまった。お金持ちの金銭感覚が庶民の僕にはさっぱり分からない。 アルバイトを終えると、桐島さんが手配してくれたタクシーが待っていてくれて。途中スーパーに寄ってもらい藤堂さんが一人で暮らしているというマンションを訪ねた。 鍵は桐島さんから預かった。 「藤堂さんいますか?桜空です」 寝室は玄関から入って手前の部屋。教えてもらった通りにドアをそっと開けると、藤堂さんはベットに横になっていた。起こさないように足音を忍ばせて近付いた。 額にいっぱい汗をうかべて、寝苦しそうな荒い息使いをしていた。顔色がびっくりするほど悪かった。 額の汗をタオルでそっと拭い洗面所に行こうとしたら、藤堂さんがゴニョゴニョとなにかを呟いて袖を掴まれた。 「すぐに戻ってきます。どこにも行きませんから。今夜はずっと藤堂さんのそばにいます」 手がすっと離れた。 僕よりうんと年上なのに。 こんなにも可愛らしい大人のひとっているかな。 自然と笑みが零れた。 藤堂さんのそばにいれるだけですごく幸せな気持ちになれるから不思議だ。 こうして看病させてもらえることがすごく嬉しかった。
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