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「お疲れさまでした」リュックサックを背負い厨房から出たとき、ちょうどカランカランと呼び鈴がなり、黒服のいかつい大男を従えたサングラスをかけた女性が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ。大変申し訳ありませんが只今の時間満席でして、受付してお待ちください。番号でお呼びします」
笑顔で出迎えた店長に、
「どいて、邪魔。あなたに用はないの」
肩を押すと、誰かを探しているみたいで店内をキョロキョロと見渡した。
「お客様、待ち合わせですか?」
「ここに私の婚約者をたぶらかすドロボー猫がいるでしょ?」
「ドロボー猫ですか?」
首を傾げた店長に、
「頭悪い男ね。だから、半谷っていう気色悪い男がいるでしょって聞いてんのよ」
「半谷さんなら帰りましたよ」
パートの枡さんが厨房から出てきた。パート歴十年の大ベテランさんだ。何かと気に掛けてくれて、こんな僕にでも優しくしてくれる。みんなのお母さんみたいなそんなひとだ。
「ドロボー猫って、自分のことを差し置いてよくそんなことが言えますね。半谷くんがドロボー猫っていう証拠はあるんですか?証拠もないのに半谷くんをお客様の前で悪く言うなんて。営業妨害で訴えますよ」
「はぁ?」
女性が不機嫌そうに顔をしかめた。
「谷口海知、後存知ですね?知らないとは言わせませんよ。長谷唯花さん」
枡さんが毅然とした態度で女性の前に立った。
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