桜空

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二年制の調理師専門学校で学ぶために必要な学費を貯める。これが僕の目標だ。 オフィスビルの清掃とファミリーレストランでのアルバイトを掛け持ちし毎日朝から晩まで働いているけど、アパート代と、どんなに切り詰めても日々の生活費が家計に重くのし掛かかり思うようにお金を貯めることができないでいた。何もかもうまくいかなくてため息ばかりついていた。 そんなある日彼に出会った。 早朝のオフィス。誰もいないと思って掃除機をかけていたら、 「ねぇきみ、ちょっといいかな?」 肩をとんとんと軽く叩かれて心臓がとまるんじゃないか、それくらい驚いた。おっかなびっくり顔を上げ、彼の端正な顔を見た瞬間、あっという間に「うわ……」と目を奪われた。そしてどういう訳か胸がぎゅっと苦しくなって、他のものが何も見えなくなって……。 「す、すみません。ぼおっとして」 掃除機のスイッチを慌てて切った。 「俺のほうこそ驚かせてごめん。ボタンが落ちてなかったかなと思って」 「ボタンですか?」 「どう説明したら分かるかな?べっ甲みたいな感じの黒い色で」 「あ、もしかしてこれですか?トイレ掃除をしていたら洗い場に落ちてて」 ウエストポーチから黒光りするボタンを取り出した。 「そうこれ。実はこれから出張で。裁縫道具なんて持ってないよね?」 「持ってますけど」 「本当?悪いんだけどボタン付けてくるかな。嫌なら無理強いしないけど」 「嫌ではないです」 「助かるよ。ありがとう」 目をキラキラと輝かせる男性。人見知りで口下手なのに彼と話すうち気付いたら僕まで笑顔になっていた。
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