帰って来た兄

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 栄暁(=一幡)は心底申し訳なさそうな顔をして、その後の事情を語った。 「宋へ渡った後、幼かった私はそのまま寺に入ったのですが。同じ寺に入ったり、連絡を取り合ったりして、俗世での親子の情が修行の妨げとなってはいけないからと、長い間父上とは音信不通になっていたのですが」 「このたび、日の本に帰る際に、儂の乗る商船でたまたま一緒になって、二十年ぶりの感動の父子再会となったというわけさ」 「仏に仕えるという誓いはどうなったんですか!」 「そんなの嘘に決まってるだろ。儂の旅は、異国で儂を待っている大勢の美女達に会うためだったのさ」   言葉を荒げた実朝に対し、金吾郎と名を変えた兄頼家はあくびれもせずに答えた。 「女好きは源氏のお家芸ですから!」  破戒僧の息子公暁も、父に同調した。 「私は断じて違います!父子そろって何やってんですか!」  怒り心頭の実朝に対し、千代姫と万寿姫があどけない顔で尋ねた。 「ととさまはどうして怒っているの?」 「この方たちはだあれ?」  金吾郎と公暁父子は、幼い実朝の姫達と実朝の正室倫子を見て、にやにやしながら話をしている。 「二人とも、将来絶世の美女になりますよv」 「母親に似たんだな。いとやんごとなき姫君vたまらんわv」  破戒僧公暁はやがて鶴岡八幡宮別当の職を解かれて還俗し、父の後を継いで自由と美女を求めて商人となる道を選び、代わりに兄の栄暁(=一幡)がその座に就くこととなった。  公暁は、十三人の隠し子らの将来について何にも考えていなかった。 新しく源氏の分家を創設することを許すか、しかるべき公家や武家に養子に出すか、その割り振りを考えなければならない。実朝は、その尻拭いをさせられることになった。  二十年ぶりに日の本に戻った金吾郎は、その後しばらく鎌倉にとどまり、多くの美女との浮名を流すことになりそうだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加