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「環くん、分からないところがあるのだけれど……」
「ん? いいよ、どこが分からないの?」
「いいな~。私にも教えて!」
「じゃあみんな、ここに座って」
休み時間になると、こうして誰かが必ず環に声をかける。
試験を受ければ常に学年トップで、運動神経も良いからどのスポーツをやらせても一番目立つし、さらには容姿も完璧で。
ここまで言うと大げさかもしれないが、この学校では誰よりもモテるんじゃあないだろうか。
そんな環だからほとんどの女子はどうにかして彼と仲良くなりたいと話せる機会を狙っているし、一人が声をかければ、抜け駆けは許さないとでも言うように一気に女子が群がり始める。
こうなると他の男子は、環に良いイメージを持つことなく妬んでいるのでは? と思うのだがそういうこともなく、どうやら男子からしても環は憧れの的で、尊敬の目で見られることが多い。
「環くん、すごい! 先生よりも分かりやすいよ」
「そんなことはないと思うよ。俺が理解できるのは先生の教え方がうまいからだし」
「も~。環くんってば優しいんだから」
そう、環は優しいのだ。
今だって分かりやすいように笑顔を振りまきながら丁寧に教えているし、本当は心の中で「面倒くせぇ」と思っているに違いないのに、全くそんな感情は表に出ていない。
だから、そうとも知らずに女子はキャッキャとバカみたいに浮かれて環を見つめている。
その光景を俺は、ひとり離れた席からぼんやりと眺めていた。
別に今だけじゃあない。これを毎日、だ。
飽きもせずに彼に構ってもらいたいと群がる女子を、机に肘を付いて見ているだけの日々。
コミュ障の俺は人とうまく話すことができないから、誰かと関わることもなく、環がいない時はほとんど一人でいる。
誰かと話すと、「どうしてそんなに声が小さいの?」だの「言いたいことがあるのならはっきり言って」だの、とにかくうるさく言われてしまうから、そうなるくらいならば初めから一人でいるほうがマシなのだ。
だから、女子に囲まれている環を全然羨ましいとは思わない。
愛想良く笑う彼と周りの女子を鼻で思いっきり笑ってやった。
きっと心の中で環はこう考えているに違いないと、環の心の声あて遊びをやりながら。
環とは家が隣で、保育園の頃から高二の今までずっと一緒。つまりは幼なじみ。
毎日環と関わりを持とうとどんなに努力したところで、このクラスの誰よりも環のことを知っているのは、この俺なのだ。
みんなの王子様である環くんは最悪な大魔王だってことも、幼なじみの俺しか知らない。
優しい彼は作られた彼であって本物じゃあない。上面だけいい奴なんだ。
だって俺に対してだけ、ひどく意地悪だもの。
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