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僕は母と戦う
「今から駅前警察署に行きます」
「本庁の松山くんに会う訳ね。あの『おぼっちゃま』が今は本庁のエリートなんてね」
「松山くん」! 「おぼっちゃま」! 僕っていま、絶望的な気分。母が一言命令すれば、松山さんは僕なんか相手にしてくれないだろう。
「悪いけど無理。今からお母さんと来てもらうから。あなたのお祖父さんや伯父さんも一緒に話をしましょう」
車の窓から見える祖父の横顔は微動だにしない。
「叔父さんも呼ぶ? 親戚一同呼んでもいいからね」
母の宣告がめちゃ重い。
(もうダメだ)
そんな気持ちが心いっぱい広がって、思わず、
「はいっ」
て返事をするところだった。
その直前だった。胸ポケットに入っている定期入の感触が、僕の勇気を甦らせた。定期入のサキ先輩の写真が心一杯に大きくなる。
「僕、いまは行けません」
祖父にも僕の言葉は聞こえただろうか?
「月影サキさんのことは知っています。『JKマフィア』でいいよね。すごい呼び名だけど、私から見れば小悪党ね。けれど健に不利益な人間だということは間違いない」
「お母さん」
「警察に入るときは、必ず身元調査があるからね。彼女が起訴でもされれば、健は警察に入ることが出来ない。分かってる?」
「僕、警察官なんかになりません」
「それはお祖父さんや伯父さん、親戚一同に言えるの? 悪いけど無理じゃない?」
「『盗撮画像サイト』事件が解決して、運営者が起訴されれば、月影さんは起訴されません。とりあえずそれならいいんでしょう」
「それは今回だけのことでしょう。どうして他人に迷惑をかけることしかしない半グレの先輩を助けようとするの」
僕は胸ポケットに手をあてた。ポケットの中には定期入に入ったサキ先輩の写真。いま、僕は、ポケットの布越しに先輩としっかりハグしていた。
「僕より一歳年上の、いえ、僕って早生まれだから、ほとんど二歳年上ですが、月影サキさんのことが好きです。だから助けにいきます」
「『JKマフィア』、『ヤンキー』『半グレ』『小悪党』。どの呼び名もあたっている。どうしてそんな先輩を好きになったの。説明しなさい」
「初対面のとき、カッコよかったんです。そばにいたいと思いました。それだけです」
「そんな理由では、お母さんは納得しません。健がイヤと言っても関係ない。今からの予定を話しておきます。名古屋の学校に転校させるか、お母さんが仕事している大阪に来てもらいます」
母が右手を伸ばしてきた。僕の腕をつかんで車に連れていくつもりだ。母は僕と違ってスポーツ万能。中国の友人から少林寺拳法を習ったと聞いた。僕なんか、かなうはずもない。
先輩! 僕、どうしたらいいんでしょう?
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