松山さんは話を聞いてくれない

1/1
前へ
/26ページ
次へ

松山さんは話を聞いてくれない

 文さんは、昨日、松山さんたちと話をした部屋に案内してくれた。部屋に行く途中で、また缶コーヒーを買ってくれた。  僕を椅子に座らせると、 「ちょっと待っててね。松山さんを呼んでくるから」  文さんは部屋を出て行ったが、すぐに戻って来た。ドアが開くと、松山さんがイライラした口調で文さんを怒鳴りつけた。 「白木文刑事。君の行動は処分の対象になることを知らないといけない。なぜ彼を警察署に入れた」 「話を聞いてあげてもいいじゃありませんか?」 「この少年の行動を、家族や親戚が喜んでいるとは思わないね。僕は火中の栗を拾うつもりはない。分かるかね。僕は次期警視だ」 「だったらきちんと話を聞く義務があるんじゃないですか?」 「上司に反抗か? 僕は次期警視だ。未来の警視総監に向かって、あまりいい選択とはいえないな」  松山さんが、冷たい目で僕を見下ろしてきた。 「日下くん。今の話を聞いて聡明な君なら、僕がどうするか見当はついただろう。君に会うことも話を聞くことも出来ない。白木刑事が君を玄関まで送ってくれる。白木文刑事。さっさと彼を連れて行きたまえ。いずれ君は規律違反について査問を受けることになる。」  ああ、もうどうしようもない。松山さんが話を聞いてくれなければ、先輩を助けることなんかもう出来ない。  知らないうちに、涙が浮かんできた。  そんなの絶対イヤだ。サキ先輩にもう会えなくなるなんて……。  でも僕って、どうしたらいいのかしら?
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加