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雅が帰国する日が決まった。
もちろん当初は迎えに行くつもりだった。大丈夫だと強がっていたけれど、触れる距離にいるならば直ぐにでも会いたいのが本音だったから。
なのに、よりによって見合いの日と被ってしまった。
やっと会えるのに。
やっと触れられるのに。
だがこれは自分が背負わされたものだ。
避けては通れない。
いつかは、いつかは手放さなければいけない関係だった。甘く考えていた自分にも責任がある。いつまでも甘く温い場所に留まり続ける事など出来ないのだから。
それでも.....
答えの出せない悩みを毎日噛み砕きながら過ごす。毎日の雅との会話だけが救いで何とか気持ちの均等をとる日々だった。
苦しい。
助けて雅。
だが結局、雅に事情は話せずに見合い当日を迎えてしまった。
高級なスーツに身を包み車に乗り込む。
雫は窓からずっと外観を見ていた。このまま消えてしまえたらいいのに。だが、消えたら雅に会う事も出来ない。
何故?と言われたら分からない。
ただどうしようもなく息苦しく
静かな車内にいるはずなのに耳鳴りが警報を鳴らす。
信号が赤になり車が停車したタイミングで車から降りて走った。
息を
息をしなくては。
車から離れてだいぶ呼吸が楽になりまた雫は歩き出した。先程からけたたましく鳴り響く携帯音を切り空港を目指す。
どうしても雅に会いたい。
彼の顔が見れて触れられれは何もいらない。
雫はその思いだけで前に進み横断歩道に差し掛かった。
そこまでが記憶には残っている。
だが、今、雫は天使であるユージンと手を繋ぎ壁の向こう側で雫の両親を前に泣き崩れる雅を見つめている。
透けた壁が雅のいる世界と自分がいる世界を隔てているようで遠く感じた。
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