<51・Izuru>

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 イヅルのスキルは、絶え間なく変身を繰り返すことが全体のスキル。変身し続ければペナルティを受けずに済む。だが、動揺するなり集中力が切れるなりして変身が解けてしまうと、その後の『③変身を解いた後、変身していた時間と同じ時間変身が不可能になる。ただし、例えば十分間の変身の間に休みを挟まず複数の変身をすることは可能。④変身していた時間が長ければ長いほど解いた後の疲労も増える』の条項の影響を受ける。  うまく驚かせて変身を解かせることができればと思っていたが、なんとかなったようだ。  あとは。 「桂月君!」 「はい!」  残る一人。  イヅルが失念していたその相手が、攻撃を撃ちこむだけ。 「ぐっ……ううっ……!」  瓦礫の下から這い出してくるイヅル。しかし、彼はペナルティのせいで数分間は変身がつかえない。そして、その状態では逃げることもできない。 「ごめん、イヅル。でも……これでチェックだよ」  桂月のエアガンが、イヅルの肩に命中した。細い針なので、それそのもののダメージはさほどない。  しかし、イヅルも桂月の能力は知っているはずだった。彼が洗脳される前から、桂月は十影の元にいる。予め能力を教わっていてもおかしくない。  何より、仮に知らなくても、顔を合わせた時点でアナウンスは聞こえているわけで。 「そう……そっか。俺、殺されるのか」  その時。驚愕に見開かれたイヅルの目から、何かが抜け落ちるのをつばめは見た。針を抜こうともせず(抜いても意味はないけれど)、這い出すこともやめてぽつりと呟く。 「よかった」  多分。  それが彼の、最後の真実だったのだろう。思考を上書きされ、自分が自分でなくなるような苦痛と絶望と快楽の中。それでもイヅルは最後に、自分を取り戻すことができたのだろうか。自分達は、それを信じていいのだろうか。 「……言ってはいけないと思ってた言葉があったの。イヅルは、もっと他に相応しい人がいるから、私なんかがそれを言う資格はないって。でも」  心臓が張り裂けそうだ。それでもつばめはイヅルをまっすぐ見つめて言う。 「でも、言うよ、イヅル。全部が終ったら私は……本当の気持ちを、全部君に言う。だから……それまで、待ってて」  イヅルは、それ以上何も言わなかった。それでも十分だった。  桂月が能力を発動させ、イヅルの体が崩れ落ちるのを――つばめは間近で、目を逸らすことなく見つめ続けたのである。
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