<51・Izuru>

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 ***  本当は、殺したくなんてなかった。  イヅルのことだけじゃない。一番最初に踏みつけた子吉露奈さえそう。芦田興三郎でさえそう。人を殺すということは、生きることと絶対的に矛盾する――かつて、どこかの漫画でそう書いていたが、まさにその通りだと思うのである。  つばめは強い人間ではない。  むしろ心の弱い、己を肯定することも世界を認めることもできない脆い一人の女子高校生でしかない。  それでもこの過酷なゲームを戦うことを決めたのが、イヅルの存在があったからこそ。  そして、彼が今までかけてくれた言葉、存在した意味、思い出は――イヅルがいなくなってからも永遠に消えることはないのだ。  つばめが忘れない限り。それを胸に刻んで生きる限り。  そして、その死を無駄にしない限り。 ――私が、スキルを解除できるタイプのスキルを会得すれば……イヅルを殺さずに救うこともできたかもしれない。  皇も京也も、なんとか致命傷は受けずに済んでいた。いろいろ考えた末、つばめ、蒼夜、京也、瑠璃香、皇の五人は瑠璃香の能力で町を覆う壁を小さくして侵入することに成功する。  桂月が言っていた通り、“ノースランシティの石像”のスキルを持った少女を見つけることは容易かった。何故ならば門近くで、自身も石像になった姿でひたすら十影の名前を呼んでいたのだから。 「十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様、十影様……うふふふふふ」 『二年三組、和賀花音(わがかのん)。  攻撃力0  守備力100  体力0  敏捷性0  魔力0  知力0  石像を作る。この石像は、特定の条件が満たされた時、標的を殺害することができる。①自分の半径10メートルほどに近づいたゲーム参加者は光てできたナイフを発射して攻撃する。②自分を攻撃してきた者は、その者と半径10メートル以内にいた者を幻覚の空間に引きずりこみ、その人間が苦痛を感じる殺害方法で殺害する。 ただし、この石像を維持するために、花音は石像から半径10メートルにおらねばならず、石像を具現化している間は己も石像となり、一切動くことができなくなる。』  待ち一辺倒のスキル。  しかし、守備力も100振っているし、石像になった彼女を破壊するのは容易なことではない。  何より花音を殺しても石像が消える保証がなくなってしまった。仕方なく、そこは桂月に言われるがまま、スルーすることにしたのである。  死ぬこともできないまま、十影の死も知らないまま、石像として佇み続ける少女を哀れに思いながらも。 ――それでも私は、イヅルを殺すことにした。……イヅルなら、それを願うと思うから。私が、イヅルを救うためだけに未来を諦めることなんか望まないから。  花音がいる民家の庭をすり抜け、まっすぐ城へ向かう五人。  もう、道を遮るものはない。赤い煉瓦の道を、ノースランシティの警備兵たちが守る街道を、まっすぐ城へと向かって歩く。  そして。 ――イヅル。……今、終わらせるよ。  つばめたちは辿り着く。  ノースランシティの城へ。最初の五人として。 『おめでとう、五人の勇者たち!』  青い宝石がちりばめられたような、尖った屋根。白い大理石の壁。紺色の、ペガサスを象ったような門。  その門が、女性の声のアナウンスと共に開いていく。 『歓迎しましょう!異世界バトルロワイアルの、勝者たちを!』
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