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もし。
あのゲームがなかったら、自分はどうなっていたのだろうか。
つばめは思う。――教室の窓辺で、外を見つめながら、想う。
異世界バトルロワイアルはなかったことになり、天上貴族がもたらした全ての災厄は消え失せた。自分はまた学校に戻り、退屈な日々を過ごしながら教室に佇んでいる。
あの時の事件の記憶はどうやら、最終的に勝利した五人以外からは失われているようだった。当然、それは蘇ったイヅルも、何も知らずにイヅルと絡んでいる十影もそう。
芦田たちもきっとそうで、彼等の罪はなかったことになったとはいえ、本当に裁かれなくて良かったのかと思うこともあるのは事実だ。
起きたこと。なかったことになったこと。辛い記憶、嬉しい記憶。それらに決着をつけるのは、もう少し先のことになるだろう。
ただつばめは思ったのだ。もう少し、一人一人に向き合って、もっともっとたくさんの人と話をしてもいいのではないかと。
それから。
成し遂げた自分を、少しだけ、好きになってもいいかもしれないと。智樹も、それを許してくれるかもしれないと。
「!」
思わず前につんのめった。肩を叩いてきた人物がいたためだ。驚いて振り返った拍子に、つばめの長い黒髪が相手の顔面を叩いてく。いって!と声を上げる人物。やや明るい茶髪の少年が、鼻のあたりを抑えて呻いていた。
「痛い!つばめ、イッタイよ!」
「あ、ご、ごめんイヅル。びっくりしちゃって……」
もー!と怒ったフリをするイヅル。ああ、前にもこんなことがあったっけ、と懐かしくなる。あの時の自分は、どのように返しただろうか。
「うう、つばめの髪は地味に凶器だなー。ラプンチェルみたいだぜ」
「なんでラプンチェル?お姫様なのに?」
「知らないのかつばめ。ラプンチェルって、キングダムハーツだと髪の毛武器にして戦うんだぜ。結構かっこいいんだ!髪の毛ひっぱられまくって痛くねえのかなーって正直思ってたけどさ!」
そうだ、あの時自分は、こんなことを言って彼を困らせた。
『イヅル、私と話して楽しい?……イヅルと話したい子はたくさんいるのに』
彼の優しさを、いつも真正面から受け取れなくて。
それでいて彼の気持ちに甘えていたから、だから。
「……イヅル」
でも、それではきっと、何も変わらない。この温かいはずの世界を退屈にしてしまっているのは、自分自身だと気づいたから。
「そのゲーム、イヅルの家にあるの?……遊びにいってもいい?」
「え?」
「イヅルの、お友達も一緒で。……私も、みんなと遊びたい」
「ほ、ほんと!?マジで!?」
イヅルが目を輝かせる。それを、つばめちゃん来るのかー!と眼をまんまるにしている皇や十影がいて、他にも数名の友人達がいる。
誰もつばめを拒まない。なんでそんなことにも気づいていなかったのだろう。
「もちろんいいよ!じゃあ今週末、みんなでゲーム大会しようぜ!」
ありきたりだけれど、今は何よりこの言葉が似合うだろう。
明日はきっと、いい日になる。
自分達が、そう信じて生きていく限りは。
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