<1・Gloom>

3/4
前へ
/213ページ
次へ
 ***  昔はもう少し明るい性格だったのに、と。つばめはそんな風に言われることがある。きっと間違っていないのだろう。昔はつばめも、もう少し髪を短く切っていた。あるいは結んでいた。外で遊ぶのに邪魔だったからだ。  小学生の時は、毎日ドッジボールをして、鬼ごっこをするような子供だった。足の速さや体力には自信があったし、長身で体格もあったからだ。体育の時間が大好きで、休み時間にはいつも友達とはしゃぎまわっているようなお転婆な女の子。髪の毛を短くしていた時は男の子に間違われたこともあるくらい、ボーイッシュな見た目と服装をしていたように思う。  それが、いつの間にこんなことになってしまったのか。  何も知らない親戚なんかは時々言う。――昔のつばめちゃんの方が良かったのに、と。ひょっとしたらイヅルもそう思っているかもしれない。でも。 ――昔の私は、嫌い。  英語の授業中。先生の子守歌のような授業を聞きながら、ぼんやりと窓の向こうを見つめていた。  窓ガラスに、つまらなそうな女の子の顔が映っている。長い黒髪、根暗そうな表情。大人しいを通り越して、いつも一人で、表情の乏しい退屈な人間。  けして魅力的な女の子ではないことくらい、自分でもわかっている。それでも、外ではしゃぎまわり、友達に囲まれて笑っていた頃の自分に戻りたいとは思えなかった。  そう、けして戻ってはいけない。  あの頃自分は、自分が楽しければ周りのみんなも楽しいと信じていた。困っている子がいても、悩んでいる人がいても、一生懸命励まして力を合わせればどんなことでも乗り越えていけると。できないことは何もないはずと、当たり前のように思い込んでいたのである。  そんなものは幻想だなんて知らなかった。あまりにも、あまりにも幼くて、無知だったから。 ――誰かの為に頑張るとか、無理をするとか、関わるとか。……そういうの、全部面倒くさい。ちょっと頑張ったらかえって何もかも駄目になる。誰のことも助けられない、もっともっと傷つける。……そういうの、何もかもなくていい。 『部活とか入ったら?つばめ』  何度も言われた、イヅルの言葉を思い出す。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加