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『楽しいこと見つけたら、つばめも笑って過ごせるようになるかもしれねえよ?……昔のこと、悩んでるのは知ってるけどさ。何度も言うけどあれは、つばめのせいじゃねえって。あの子だって別に、つばめを恨んでるわけじゃないと思うよ?』
つばめが笑っていても、誰も咎めたりしないよ――と。イヅルの言葉は正しいのかもしれない。自分はそうした方が、みんなを安心させられるのかもしれない。クラスで浮かずに済むのかもしれない。
それなのに、人と関わろうとすると、何かが邪魔をするのだ。恐らくはつばめ自身の罪悪感が。自分自身を甘やかすなと責め立てるのである。お前には笑って生きる資格なんてあるものか、と。
――それとも。私は……努力するのが嫌になっちゃってるだけ、なのかもしれない。
イヅルと一緒に学校に入りたくて、頑張った受験。念願の高校に合格したはずなのに、結局こうして怠惰な日々を送り続けている。本気で面白いと思うことも、打ち込むこともない。イヅルはサッカー部で、仲間たちと毎日笑いながらボールを追いかけているのに、自分は。
「おい」
ぼんやりしていたつばめの耳に、突然その声は聞こえてきたのだった。
「おい、あれ、なんだ?」
「……?」
振り向けば、クラスの男子の一人が窓の向こうを指さしていた。さっきまでつばめが見ていた窓。何か変なものでもあったかな、ともう一度窓の方を見たつばめは気づいた。
今の時間、どこのクラスも体育の授業はやっていないようだった。がらん、とした校庭の真ん中。黒い点のようなものが、ぽつん、と落ちているのが見える。
まるで紙の上に落とした、墨汁の雫のよう。不自然なほど、黒い。まるであらゆる光を飲みこんでしまったかのような。
――なに、あれ?
次の瞬間、その黒い点が広がった。こぶし大くらいだったであろうサイズが、サッカーボールくらいの大きさへ。さらに大きな円へ。そして。
「お前たち、授業中だろ。何を……」
注意した先生さえも固まった。気づいたからだろう。
「な、なんじゃありゃ……」
真っ黒な円の中から――黒い巨人のようなものがずるり、と這い出してきたのだから。
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