彼氏はおやつに入りますか?

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人を喰らう<マンイーター>の起源は第一次世界大戦の頃という。 人類史上としては比較的新しい存在だ。 戦争において食料到達は重要な要素である。 敵兵を倒し、そのまま食料とする方法が模索された。 <マンイーター>は特殊な細胞を注入された改造人間だ。どの国が開発に成功したのかは定かではない。密かに行われたはずの研究、人体実験にはスパイが紛れ込み、同盟を組んでは裏切り、敵だった国と新たに手を組む。 そんな混沌だったものだから、時期を同じくして散在的に誕生し、どこの誰が第一号だったのか特定できなかった。 では戦場に現れた彼らの活躍は如何程だったのか。 残念ながら微妙と言わざるを得ない。 特に苛烈な戦場に送り込まれていったが、人を喰らう能力こそ有していたものの、戦闘能力が強化されるわけではない。兵器の優劣によって勝敗を決するのみで、通常の人間と等しく火器の前にはただ命を落とすしかなかった。 唯一活躍できる食料調達な困難な環境、例えばジャングルや孤島といった戦場において、その能力は存分に発揮されたがーーーーー悲しいかな、そのような極限状態においてはたとえ<マンイーター>でなくても、人が人を喰らうことは起こり得た。 送り込んだ覚えのない場所からの人喰いの報告を受け、軍の幹部たちは困惑するばかりだったそうだ。 <マンイーター>は人を喰う性質こそあれど、それ以外は普通の人間と変わりない。戦争が終われば各々の国に戻り、日々の生活を過ごし、子を成していった。 異なる点があるとすれば、やはり人を喰らうということだ。 人間社会において、人が人を喰うなどという行為は異常であり、猟奇犯罪である。社会に紛れ込んだ<マンイーター>が事件を起こし、無責任に解き放ってしまった軍部が頭を抱える頃、再び戦争が勃発し、事件は有耶無耶のうちに世界大戦へと雪崩れ込んでいった。 終戦。再び人間社会に彼らが紛れ込む状況になった時、新たな問題が顕在化していた。<マンイーター>は遺伝する。 人間社会と相容れぬ能力が次世代に受け継がれてしまうことを知り彼らは嘆き、絶望したが、そこにはわずかな光明があった。 第一世代こそ強い欲求ーーーーー人を喰いたいという食欲を有していたものの、世代が変わると普段は欲求は抑えられており、あくまで覚醒した者のみが<マンイーター>となるのであった。世代を重ねるほど発現率が低くなるのか、またはただの個人差であるのかは時代を推移を見守らないと断定はできない。無論、一度覚醒してしまえばやはり強力な食欲が芽生えてしまうわけだが。 第一世代の者たちは紛争地域の戦場に身を投じるか、あるいは裏社会に生きるなりして、それぞれの生涯を終えた。今、この世界には第二世代以降の<マンイーター>が潜んでいる。いつ覚醒するかわからぬ爆弾を抱えたままで。 私もその一人だ。母親は<マンイーター>の遺伝子を持っていたが覚醒しないまま交通事故でこの世を去った。 父親は普通の人間であり、母娘の秘密は知らない。 私は幼いころ母に我が身の秘密を打ち明けられたが、ずっと半信半疑でいた。 普通に暮らせているし、学校にも通えている。彼氏だっている。今日もデートだ。 どこにでもいる女子高生としてまずまずの生き方ではなかろうか。 こんな平穏な日常で<マンイーター>など。 隣の彼氏がニッコリと笑いかけてきた。 「今日、どうする?」 私も笑顔でこたえる。 「おなかが空いた。」
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