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見ればあそこに太鼓。そっちにブルドーザー。これであの背骨に響く揺れを起こしてた。俺のウエストより二回りくらい大きな足跡の型。これをあちこちに型押しして。そして雄叫びや唸り声のカセット……。
えへへ、と笑う、ツル髪女と手作り鍬のオッサン。
「あたしら、元演劇部でねえ。こういう小道具作るの、楽しくてさあ」とのたまった。
まあこの二人とみのりんが首謀者だとしても。恐れ崇め奉りながらも、住人みんながこんなトンチキな作戦に協力したんだ。
それはきっと、みのりんだけじゃなく、怖いだけじゃない日美子さんの魅力がそうさせた。
わかる。わかるぞ。だから俺は日美子さんに答えた。
「一方的なのは好きじゃないよ」
と、日美子さんが目を泳がせ、伏せた。そして「ご、ごめん……」と消え入りそうな声で言った。
わ。違うんだ。俺は慌てて続けた。
「――ちゃんと双方向にしていい?」
そう聞いたら、日美子さんはゆでダコのようになってしまった。ティラノー、脱皮したらタコになる、の巻。
「さて、どっちにする?」
みのりんが割り込んできて、俺に両拳を突き出した。
「帰りのボートに乗れるチケットか、そこのコンビニの横にバーを出すお仕度券か」
俺が選ぶ前にみのりんは俺の背をどついた。そうして俺は、ティラノーあらため赤タコさんの手を取った。
(終)
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