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ここは無人島ではなかった。
過去何度か俺たちと同じように流れ着いた人々がサバイバル暮らしをし、そのまま居ついたのだとか。腰までの長い髪をツルで編んだ女が教えてくれた。
そんなに居心地がいいんだろうか。
年を通して気候が穏やからしく、見かける誰もが布一枚羽織った姿で裸足で行ったり来たりしている。
いわゆる、石器時代……みたいな。
住人たちの食ってるものは何かぐちゃっとした見た目の謎の物体で、デリケートすぎる俺の腹に合いそうもなく。
でもコンビニもない。スーパーもファミレスも、カレー屋も牛丼店もない。
おなか、空いた……。
「だからこれを食えよ。腹減ってるだろ?」
みのりんが、尚も謎の板切れ料理を突き出してくる。
「……これ、何?」
「何でもいい。空腹なんだろ。食わねば死ぬだろ」
「で、何の料理?」
「聞いて驚け。あの隅っこから拾ってきた肉だ。名前は不明」
気になってたんだ。
この島、自然の木々を屋根にした家屋らしきものが整然と並んでいるけれど、死角になっている隅っこに、血生臭いそういうのとか、白骨っぽい欠片とか、そんなのがまとまっていること。
「そんなの……食えるか」
「想像するに、たぶんイモリだな、これ」
うん、無理。
「じゃ、こっち」
板切れがもう一つ差し出されたが。
みのりんは料理人だから。盛り付けや彩りで美味しさを演出することに長けている。
「念のため聞いとくけど」
「うん、答えとく。イグアナとゴキブリの氷雨和えだな、たぶん」
おなかが空いているはずなのに、喉元まで吐き気が込み上げてきた。
「いわゆる、ゲテモノ料理というやつだな?」
「とも言うな」
「無理」
みのりんのおかげで、今の俺は好き嫌いなく腹を壊すこともなくなった。
でも。食材によっては否。
「食わないなら仕方ない」
そうして、無理難題が突き付けられた。
――この吐き気を催す料理を食うか、ティラノザウルスと結婚するか……。
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