12 冷徹皇帝の優しさ

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「ノツィーリア姫」 「は、はいっ」 「随分と顔が赤いようだが具合が悪いのか? つらいようなら医官を呼ぶが」 「……!」  ガウンを口元まで引きあげて顔を隠してそっぽを向く。  そんなことをしたところで熱を帯びた体はごまかしようもない。 「具合が悪いというわけではないのですが……、あの、これは、その……」 「言いづらいことか? 男の医官に言いたくないようであれば女官を呼ぼう」 「いえ! どなた様のお手をわずらわせるほどのことではございません!」  とっさに振りむいたノツィーリアは、持ちあげたガウンから目だけを出して皇帝と視線を合わせると、自身の状態について正直に告白した。 「私、実は……さきほどのお務め前に、媚薬入りのお茶を飲まされてしまい、その……」 「媚薬、だと……!?」  心配そうな面持ちをしていた皇帝が、途端に愕然とした表情に変わる。  しかしすぐに悔しげな面持ちになった――まるで、怒りを表現できないノツィーリアの代わりに怒ってくれるかのように。 「そうか……。そうよな、その名目で設けられた場だからこそ、そのような無体を働かれてしまったのだな」  切なげにつぶやいた皇帝が手を差しのべてくる。ノツィーリアよりもずっと大きな手のひらは、火照る肌に触れる直前で止まった。 「……。触っても?」 「は、はい、……っ」  銀髪の内側に差しこまれた手が頬に触れてくる。媚薬というものは人の体温までをも敏感に拾ってしまう効果があるのだろうか、熱い手のひらに包まれただけでノツィーリアはびくっと肩を跳ねさせてしまった。 「気付いてやれなくてすまぬ。ずっと苦しんでいたのだな」 「ご心配いただきありがとうございます。効果が切れるまで耐えようと思っていたのですが、体の熱さばかりはどうしようもなく……」  房事の際に用いる薬については事前に読まされた本で学んでいた。体温の上昇についても書かれていたため今の熱さは想定内だった。そして効果を収めるには性交により発散するか自身で発散するか、薬効が切れるまで耐え忍ぶかのどれかしか方法がないという。  考えるまでもなく、ひとりで耐えてやりすごすつもりでいた。  ルジェレクス皇帝がノツィーリアの頬を慎重な手つきで撫でながら、薬効に苦しむノツィーリア以上に苦しげな声音で問いかけてくる。 「ノツィーリア姫。そなたを金で一晩借りようとするなどという暴挙を働いておいて勝手を言うが……。余に、そなたの苦しみを解放する手助けをさせてはもらえぬだろうか。無論、そなたが嫌でなければ、だが」 「とんでもないことでございます……! 私ごときがあなた様のお手をわずらわせるなど、おこがましいにもほどがあります!」  途端に眉根を寄せた皇帝が、ノツィーリアの頬から手を外し、視線を逸らす。
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