サラダにポテトチップス

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過去を振り返る奴は成長しないとか、自己肯定感が低いとか、ネガティブだとか、情けないとか? だったらなんだと思ったり…思わなかったり。 昔、短期でした電気屋のバイトで知り合ったミヤさんって年上の女の人の家に遊びに行ったのを、たまに思い出す。 何故だか、たまに思い出す。 特にお腹が空いた時、サラダなんか見たら思い出す。 彼女はまだ20代も前半で、凄く若いのにバツイチだった。子供は居なくて、サブカル好きの少し変わった人だった。 元旦那さんと住んでいたマンションに一回、そこから引っ越した先のハイツに一回、遊びに行った事がある。 台所のシンク下の開き棚なんかに、洋画のポスター。風呂場はブラックライトで、小さな黄色のアヒルちゃんが沢山浮いていた。 夜ご飯に出てきたサラダに、おもむろに袋から出したポテトチップスを砕いて振りかけた。それは10代の私には衝撃で、何だかカッコよく見えた。 その時食べたサラダは、無性にお腹が空いていたせいか、バリバリザクザク…初めての味で、それは子供のような味で、とても可笑しく、美味しかった。 ミヤさんは夜になるとタバコを咥えながら膝を抱いて、チカチカするブラウン管のTVの光に顔の色を変えていた。 「寂しい?」と聞くと、苦笑いして、タバコを灰皿に打ちながら、「そういう世界かぁってだけかな」と呟いた。 ミヤさんはプロ野球選手とお付き合いしていて、結婚する約束までして、婚約指輪まで貰ったのだけど、お相手はちゃんとしたお家のお嬢さんと結婚する事になり、ミヤさんは振られたらしかった。プロ野球選手の彼は、その世界のお偉い方が選んだ相手と結婚するらしい。 突然連絡がとれなくなり、最後に説明されたのはそういった話だったのだそうだ。 TVの光でミヤさんの顔がチカチカするのを見ながら、物凄く切ない気持ちになったのを覚えている。 ミヤさんとは、それきり会わなくなったし、私が携帯を変えたか何かで、連絡さえ取らなくなった。 彼女との思い出はそのくらいなのだけど、どうしてだか、たまに思い出すのだ。 ミヤさんは明るくて、凄く細身で、パーマをあてたボブヘアで、色白で、一重で、変な人で、行動力があるのに、ひとりぼっちだった。 今、彼女に会ったら聞いてみたい。 もう一度、「寂しい?」と。 そしたら今度は「寂しく無いよ」と笑いながら、やっぱりサラダにポテトチップスを入れて欲しいのだ。
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