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「男の唇も柔らかいんだ…」
「……」
「もっと硬いかと思ってた」
俺も同じ事を思った。
ふたりで飲み続けていたら終電の時間を過ぎていて、俺は徒歩だから問題ないけど史呉が帰れないので自宅に連れ帰った。
さすがにもうお酒は飲めないから、途中のコンビニで買ったスポーツドリンクを床に並んで座ってちびちび飲みながらお互いの元カノの話とかしていた。
傷の舐め合いって言うより、口に出す事でさっさとすっきりしたかったのかも。
シャワー浴びていいよって言ってサイズの合わない着替えを貸して、俺もシャワーを浴びて。
俺が床に布団敷いて寝るからベッド使ってって言ったんだけどそれは悪いからって言われた。
しばらく譲り合って譲り合ってどっちも引かずに、一緒にベッドに入る事で両者納得。
狭いベッドで男ふたり。
電気を消したら色んな疲れでうとうとしてきて、隣を見ると史呉も目がとろんとしている。
「……女の子はもう無理かも」
そんな呟きが聞こえてきて、ぼんやりしながらどういう意味だろうと考えていたら史呉のほうを向かされた。
顔を覗き込まれて、
「キスしていい?」
ただ頷いた。
それで「男の唇も柔らかいんだ…」になる。
「史呉…?」
ぎゅっと抱き締められて、すん、とにおいを嗅がれたので、俺も史呉の背に腕を回す。
「俺と付き合ってください。俺、久遠がいい」
どきどきとか通り越してすごく落ち着く体温。
俺なんかでいいんだろうか…と思ったけれど、頷く以外に答えはなくて首を縦に振る。
酔いはもうそんなに残っていないので酔った勢いじゃないし、史呉のそばにいると心地好いから俺は嬉しい。
史呉は女の子はもう無理と思っただけかもしれないけれど、話しているうちに俺は史呉をひとりの人間として興味を持ったし惹かれた。
明香里が惚れた相手だって言うのはちょっと複雑だけど、史呉に罪はない。
「大切にする」
「うん…」
「大切にするよ、久遠…」
優しい言葉に力強い腕。
「俺も史呉を大切にする」
「ありがと」
女の人と違って柔らかくない身体を抱き締め返す腕に力をこめる。
俺を包み込むように抱き締める史呉は、今どんな表情をしているだろう。
顔を見ようとしたら目を手で覆われた。
「見ないで」
「なんで?」
「絶対だらしない顔してるから」
かっこいい人のだらしない顔は是非拝んでみたいものだ、と目を覆う手をどかそうとするけれど、史呉が手に力を入れるのでどかせない。
少しむっとすると、真っ暗な視界のまま唇に柔らかいものが触れる。
ずるいな…と思いながら温もりに心を委ねた。
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