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「史呉って今までもあんな感じだったの?」
「なにが?」
当然のように手を繋いで俺の部屋に向かって歩く。
並んでゆったり歩いていると少し冷たい風も気持ちいい。
「さっきみたいな…みんなの前で…」
「全然」
そう言いながらも繋いだ俺の手の甲にキスをする史呉。
ほんとかよ…と思いながら手を軽く引くと逆に引っ張られ、つんのめったそのままの勢いで史呉の胸に飛び込んでしまう。
昨夜も感じた優しいにおい。
俺の腰に史呉の腕が回って捕まった。
「こんなに逃がしたくないのは久遠が初めて」
「……」
その割には慣れてるように感じたけど。
「でも正直困ってる」
「……なんで?」
「久遠を独り占めしたくて仕方ないから」
めちゃくちゃ変な男だ。
変過ぎる。
「……とりあえず離して」
「どうしようかな」
「早くふたりきりになりたいんでしょ」
「そうだった」
ぱっと解放されて、また手を繋いで歩き始める。
俺も史呉を捕まえていたいと思ってしまったんだけど、それを言ったらどんな顔をするだろう。
「お邪魔します」
「どうぞ」
ドアを閉めて鍵をかけた史呉は靴も脱がずに俺をきつく抱き締める。
さすがに玄関じゃ、と思って身体を捩ると腕に力がこもり、その強さが『逃がさない』と言っていてどきどきする。
「ねえ、久遠」
「なに?」
「あの元カノとどんな事してた?」
頬に手を添えられ、顔を上げる。
「どんなって?」
「この部屋、来た事あるんでしょ? あの子」
「…うん。あるけど」
「どんな事した?」
どんなって言われても。
普通に恋人っぽい事していた。
「休みが合う時は一緒に料理したり、ふたりでお酒飲んだり…映画観たり…とか……史呉?」
「……」
史呉がすごく渋い表情になっていく。
ぎゅっと抱き締められてにおいを嗅がれる。
昨日もやっていたけど、これ癖なのかな。
仕事のあとだから臭くないだろうか。
…今まで付き合った人にもやってたんだろうな。
変なの、心がざわつく。
「久遠、今度休み合わせよう。それで今言ったの全部やろう」
「いいけど…」
「約束」
俺の小指に自分の小指を絡めて、そこにキスをする史呉。
やる事がいちいちかっこいい。
「とりあえず玄関から移動しない?」
「わかった」
ようやく靴を脱いだ史呉と部屋の中に移動してふたりでベッドに座る。
「泊まってくの?」
「うん。泊めて」
「じゃあ、先シャワー浴びる?」
「一緒に浴びようよ」
「……」
史呉がもそもそと俺のシャツを脱がせにかかるけど、これってどうしたらいいんだろう。
嫌じゃないけど恥ずかしいし。
「…まだ付き合い始めたばっかだけど」
「俺はすぐ久遠が欲しいよ」
「……」
「シャワーだけ。だめ?」
そんな可愛い顔でお願いされたら、やだって言えないよ。
ゆっくり頷いたらあとはされるがまま。
服を脱がされ、浴室に連れて行かれた。
何度もキスをされて抱き締められて。
ボディタオルじゃなくて両手を使って身体を洗われるのは、どうしたらいいかわからない落ち着かない気持ちになって、肌に手のひらが滑っていく感覚にどきどきよりもぞくぞくを感じていた。
シャワー後はすぐにふたりでベッドに入る。
史呉はやっぱり俺のにおいを嗅いで、その後あちこち甘噛みし始めた。
「におい嗅ぐの好き?」
「久遠だけね」
そっか、俺だけか。
ほっと息を吐くとまた甘噛みされた。
「久遠を食べたいな」
「俺は食べ物じゃない」
「絶対美味しい」
聞いてないな…。
「明日も迎えに行っていい?」
「いいけど」
「俺達、もう離れられないね」
微笑む史呉はすごく嬉しそう。
なんとなく史呉の背に腕を回して抱き締めると、脳が蕩けるようなキスをされた。
「…久遠の店のおすすめメニューってなに?」
「全部」
「特にこれが自信あるって言うのは?」
「それなら―――……」
聞かれたままにメニューの話をして、史呉の腕の中で少しうとうとし始める。
料理長から聞いた事とか、食べやすいように工夫していると話していた事を思い出しながら説明する。
「久遠は店が好き?」
「ん…好き」
好きだから続けられている。
史呉は違うのかな。
瞼が重たくなってきた。
「眠そう…もう寝ようか」
「うん…」
「おやすみ、久遠」
「おやすみ…」
俺には史呉の目的なんて全くわからなかった。
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