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「どう思ったか……?」
そのとき、汽笛の音がした。
その音に一瞬、気を取られた亜門が視線を外した。
怜悧な横顔からは相手の嘘など即座に見抜く鋭さと強さが感じ取れる。
けれど、怖いという感じはしない。
どこか千鳥をからかって楽しんでいるのではないかと思わせるような温かみも伝わってくる。
千鳥はビロードの小箱を開いて、内側で輝いている真珠にそっと触れた。
「生まれて初めて汽車に乗りましたの……一人きりで夜を迎えますと心細くて、この真珠に話しかけましたわ……」
「真珠に話しかけるとは、おもしろい。ぜひどんな内容かお聞かせください」
「……あなたを育んだ海を見てみたいと……きっと美しい海なのでしょうね、と」
「養殖真珠は貝に核を入れ、数年かけて育てます。そして真珠を取り出すまでどのような色、形、大きさなのか分かりません」
「そのとき貝はどうなるのですか」
「貝は死にます」
「まあ……こんなに美しい真珠を生み出した貝は死んでしまうのですね……かわいそうに……」
「真珠貝をかわいそうと言ったのはあなたが初めてですよ」
「えっ、あの……」
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