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亜門はビロードの小箱から真珠を取り、千鳥の指の上にそっと当てた。
「せめて指輪に加工してお贈りすればよかったと今は後悔しています」
「指輪だなんて……はめたこと、ありませんもの」
家事で荒れた手に美しい真珠が不釣り合いに思えて、千鳥は体を縮ませた。
「それはよかった。あなたの薬指には私が指輪をはめるのですから」
「えっ、あの……それはどういう意味なのですか」
「話をもとに戻しましょう。加茂院家と多賀家の結婚条件について話しておきたいことがあります。当初の予定では形式的な見合いのために私が東京に行き、仲人を立てて正式に結納を交わすことになっていました。しかし、お父上からのたってのご希望で結納金を先に納めました。さらに電報では「当方に方違えあり」と申してこられ、公家のご習慣でご令嬢が博多に来たほうが縁起がいいと……そのように判断しているのですが間違いはないですか」
「ええ……」
「実は私のほうにも加茂院家のご令嬢との結婚を急ぎたい事情がありますので、取り引きといきましょう」
「取り引きですか?」
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