第二話ノ2 恋、露と弾けるとは

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「そんなことございません!寝所の覚悟だなんて、そんなことしてません!」  千鳥は思わず大声を出してしまって、亜門は自分の形のよい唇に指を当てた。 「この館には女中や使用人が大勢住み込んでいます。大声を上げたら人が飛んできます」 「はい……申し訳ありませんでした」 「まあ、本日が初夜ということになりますから、その辺りは家の者たちも気遣い素知らぬふうでいてくれるでしょうが」 「まあっ……初夜だなんて……そんな!亜門様、あなたは私をからかっておいでなのですね……ひどいですわ」 「からかう?妻になる婦人と寝室に二人きりでいてふざけていられるほど、私は聖人君子ではないんですが」  亜門は千鳥の髪をそっとかき上げ、その下に隠されていた火傷の痕を見つめた。 「かなり深い火傷ですね。あす、病院で診察を受けられるように手配しましょう」 「いいのです!人に知られたくないのです」  千鳥は思わず亜門の手を振り払い、そのはずみでサイドテーブルの上に雑然と積まれていた書類が床に散らばった。 「申し訳ありません、すぐに片づけます」
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